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著者の松田 康生が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
トランプ劇場に揺れるビットコイン、暗号資産サミットを解説~3月のビットコイン見通し~

2月のビットコインイベント

NEW! 2月19日 トランプ大統領「米国を暗号資産の首都にする」サウジ政府関連イベントで
NEW! 2月21日 SEC、コインベース訴追取下げ、これ以外にも法執行取り消し相次ぐ
NEW! 2月21日 Bybit史上最大のハッキング、被害額14億ドル

*2025年1月以降の主なビットコインイベントは記事最終ページにまとめています。

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材料面から見た3月見通し

2月の振り返り

2月のビットコイン価格(円)とイベント

2月のビットコイン価格(円)とイベント
出典:Trading Viewより楽天ウォレット作成

 2月のBTC相場は大きく下落。アノマリー的に1年で最も強い月で、過去14年中陽線が11回と8割近い勝率を誇ったが、今年は陰線引けとなった。

 2月のBTC市場も1月と同様に、トランプ劇場に揺さぶられる展開となった。1月20日の大統領就任直前に10.9万ドルを付けると、注目の戦略準備構想が後ろ倒しとなったこともあり、じりじりと値を切り下げていた。

 1月末にフェンタニル(麻薬)流入の取り締まり強化を求め、カナダとメキシコそれぞれに25%、原材料の製造元の中国に追加で10%の関税を課すと発表。これにカナダが報復措置を取ると表明すると、貿易戦争開始を嫌気しBTCは9.1万ドルに急落。カナダとメキシコへの関税が3月4日に延期されたと伝わると急反発した。

 しかし、10.2万ドルでCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)先物の窓埋めが完了すると上昇は一服、中国向け関税が予定通り発動し、中国も報復措置を発動すると9.6万ドルに失速した。

 その後も鉄鋼アルミニウムへの25%関税や、4月2日開始予定の相手国と同じ税率をかける相互関税が浮上し、市場はそのたびにリスクオフで反応した。しかし、米ロ首脳電話会談やサウジでの米ロ高官会談などウクライナ停戦の可能性が出るなどリスクオン要因も浮上した。

 また、SEC(米証券取引委員会)がコインベース、ロビンフッド、オープンシー、コンセンシスなどゲンスラー時代に乱発した法執行を次々に取り下げる中、BTCは三角持ち合いを形成し、9万ドル台後半でのもみ合い推移を続けた。

 2月19日のサウジの政府系ファンド主催のイベントで、トランプ大統領が「米国を暗号資産の首都にする」という従来のコミットを繰り返し、また1月のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録でバランスシート縮小の停止ないし減速が議論されたことも好感され、BTCは三角持ち合いを一時上抜けた。

 しかし、その直後にBybitで史上最大のハッキングが発生し、レンジ内に引き戻され、フェンタニルの取り締まりが不十分だとして、カナダ・メキシコ向け25%関税が3月4日に予定通り発動されると伝わると、今度は逆にレンジを下にブレーク。

 12月から続く横ばい圏とサポート8.9万ドルを下抜けると下げ足を速め、7.8万ドルまで急落した。しかし、セリングクライマックス気味に切り返すと、トランプ大統領がSNSで「戦略準備にBTC、ETH、XRP、ソラナ(SOL)、カルダノ(ADA)が含まれる」と投稿したこともあり、9.5万ドルに反発した。

トランプ政策

 このように2月もトランプ劇場に揺さぶられたBTC市場だったが、1月と少し様相が異なっていた。新政権の暗号資産政策一色だった1月に対し、2月は関税やウクライナ和平といった複数の要因にも振らされた。

トランプ政策の影響
・関税 混乱続くも市場の反応は小幅に
・ウクライナ和平 決裂しかけたが好転し始めた
・暗号資産政策 着実に進捗(しんちょく)
・マクロへの影響 景気悪化懸念から利下げ織り込み進む→材料的には回復気味
各種資料より著者作成

関税

 まず関税。その経緯については上で述べた通りだが、フェンタニル取り締まり理由とはいえ、米国の輸入先のトップ3(メキシコ、中国、カナダ)総額1.3兆ドルに20~25%の関税を新規に掛けるインパクトを市場は測りかねており、それがETF(上場投資信託)フローの減速という形で表れている。ただ、市場もこうした関税に目が慣れてきたせいか、足元ではETFフローの流出は一服しつつある。

ウクライナ和平

 次にウクライナ和平交渉だ。BTCはデジタルゴールドとして金と並んで称され、法定通貨の減価、インフレヘッジとして注目を集めているが、金とは大きく異なる性質がある。それは戦争に弱い点だ。

 究極的なリスク要因を前にすると、投資家は資産を防衛すべくリスク量を減らそうと行動する。その場合、ボラティリティが高い資産を売却すると効率が良い。インフレヘッジにはボラが低い金よりボラが高いBTCの方が良い資金効率であるのとは逆に、戦争の場合はボラが高いBTCを手放した方が効率よくリスクを減らせるわけだ。

 2月12日の米ロ首脳電話会談で急浮上したウクライナ和平だが、トランプ大統領は「遠くない将来の停戦実現」について協議したとし、サウジアラビアで米ロ高官会談も開催された。

 ウクライナも米側が提案した資源の共同開発に合意し、署名のためにゼレンスキー大統領が米国に渡り、ここまでは4月20日のイースター前の停戦に向かって順調に進んでいた。

 しかし、ホワイトハウスでの交渉は決裂。ゼレンスキー大統領は欧州に渡り、「戦争終結は遠い」とコメントした。これが米政権には、同大統領は戦争継続を望んでいると映り、軍事支援を停止することを決定した。

 このように悪い方向に歯車が回り始めたが、ゼレンスキー大統領がSNSで遺憾の意を表明し、トランプ大統領も議会演説で同国から資源協定に署名して和平交渉を再開する旨の書簡を受け取ったと明らかにし、同国の和平案をロシアも評価するなど事態は好転を始めている。

暗号資産政策

 最後に暗号資産政策だが、これは着実に進展している。先月も申し上げたが、トランプ政権の暗号資産政策の柱は三つ。

 一つ目は、規制の明確化とSECによる「法執行による規制」の撤廃。

 二つ目は、銀行業界に圧力をかけて暗号資産業界にサービスを提供させないデバンキングの撤廃と、事実上禁止してきた銀行の暗号資産参入の容認。

 三つ目は、米国での暗号資産の戦略準備構想と米国を暗号資産の首都にすることだ。

 一つ目と二つ目はバイデン前政権の反暗号資産による被害の救済、三つ目は暗号資産による産業振興を目指したものだ。

 SECは政権発足直後から規制の明確化に向けた作業チームを立ち上げ、すでにミームコインの取り扱いなどいくつかの成果を出している。

 同時にゲンスラー委員長下で乱発された暗号資産業界への訴訟や訴追告知は次々と取り下げられ、主にコインベース、クラーケン、バイナンス、ロビンフッド、コンセンシス(メタマスク)、オープンシーなどが挙げられる。注目を集めるリップル社だが、こちらは一審の判決が出ているため、単純な取り下げとまでは至っていない。

 二つ目についても、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が「銀行は完全に暗号資産サービスを提供できる」と明言するに至った。

 また、銀行のカストディ業務(投資家の代理人として、資産運用・管理などを行う常任代理人業務)参入を事実上拒んでいた*SAB121は撤廃され、シティ銀行とステートストリート銀行が暗号資産カストディ参入を表明し、バンク・オブ・アメリカはステーブルコイン発行に意欲を見せている。

*SAB121:暗号資産を保管・管理する企業に対し、顧客から預かった暗号資産を貸借対照表上の「負債」として計上するように義務付けたガイドライン。

 議会では、2024年の地方銀行破綻に際し、暗号資産業界にサービスを提供していた銀行を当局が狙い撃ちしたのではないかという調査も行われている。バイデン政権では暗号資産に関わると当局から圧力がかかったのが、トランプ政権ではそうした行為の責任追及が始まるという政策が180度変わったことを象徴する動きだ。

 こうした被害の救済については迅速に行われたが、産業振興策という性格も持つ戦略準備構想は、1月の大統領令でデビッド・サックス氏の担当官への任命を検討するように指示が出されたが、なかなか具体的な動きが見られず、相場の重しとなっていた。

 ところが、3月に入り新たな動きが見られ始めた。トランプ大統領がSNSで戦略準備に言及し、さらに「BTC、ETH、XRP、ソラナ(SOL)、カルダノ(ADA)も加える」と投稿した。

 これを受けBTCは急反発したが、その後、アルトコインを含める構想の実現性に疑問符が付き失速した。それでも3月7日の暗号資産サミットで何らかの発表があると期待が膨らむ中、その前日の6日、トランプ大統領は大統領令に署名し、既存保有分によるBTC戦略準備が発足した。

マクロへの影響

米政策金利(橙)CPI(白)実質金利(青:政策金利-CPI)

米政策金利(橙)CPI(白)実質金利(青:政策金利-CPI)
出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

 トランプ政権誕生はマクロ政策にも影響を与えつつある。FRBは昨年9月に利下げを開始し、3回のFOMCで政策金利を計1%引き下げた。その間、BTCも上昇基調を続けた。

 ところが、1月のFOMCで利下げを見送るとBTCの上昇は頭打ちとなった。前述の通り、このピークアウトには暗号資産政策や関税政策が深く影響しているが、こうした金融政策の影響も無視できない。BTCの主要な買い手であるETF投資家は金融政策に大きく影響されるからだ。

 利下げが一服した理由はCPI(消費者物価指数)の上昇である。FRBの利下げはCPIの低下で実質インフレ率が下がったことを調整するものだったため、CPIが上がったことでいったん様子見した格好だ。ただ、関税と減税をミックスしたトランプノミクスがインフレ圧力とならないか見極めたいという本音も垣間見えた。

FF先物金利推移

FF先物金利推移
出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

 実際に政権が始まってみると、乱暴とも思えるほど迅速な関税攻勢は景気悪化を懸念させ、またウクライナ和平やロシア・中東との関係改善は、当初あまり相手にされなかったエネルギー価格の低下によるインフレ低下という政権のシナリオの再評価につながりつつある。そうした中、米長期金利は低下し、一時1回に低下した年内利下げ織り込みは3回に上昇している。

相場不振の原因

ETFフローの不振

BTC米現物ETFフローとBTC/USD相場

BTC米現物ETFフローとBTC/USD相場
出典:SoSoValueより楽天ウォレットが作成

 結局、BTCは1月のピークから28%下落した。このように材料面で見れば、2月はここまで売られるほどのものではないし、3月にかけて事態はだいぶ好転している。それでも大きく下落した一因はETFフローの不振だ。これまで週次で20億ドル以上の流入が続く時期に大きく値を上げてきたBTC相場だが、2月の最終週に過去最大となる26億ドルの流出を記録した。

 ETF投資家が消極的になったのにはさまざまな要因が考えられる。中でもトランプ関税による不透明感が大きいかもしれない。BTCは戦争に弱いと申し上げたが、「貿易戦争」にも弱い。また、この動きを見て、BTCのラリーは終わったと言う人も散見される。

 しかし、この数字を冷静に見れば、ETFがローンチして1年強で流入した400億ドルのうち、ここ1カ月で40億ドル流出した形で、逆にここまで流出がほとんどなかったことの方が不思議だ。

 単にトランプ政権誕生後、相場が伸び悩んだのでポジションの一部を利食っている形にも見えなくもない。流出額が大きいのは、それだけ価格が上昇していることも影響していそうだ。要はポジション調整ではなかろうか。

ポジション調整

 株の世界では、1割下がれば調整局面で2割下がれば弱気相場入りといわれるが、BTCはどうだろうか。2017年12月のピークアウトの1カ月前の11月に28%の調整を行い、そこから1カ月で約3倍の上昇を見せた。

 また、2021年11月のピークの2カ月前の9月に25%の調整を見せ、そこから約2倍弱の上昇を見せている。足元では10.9万ドルから7.8万ドルに28%の調整を見せているが、この程度であれば健全な調整の範囲内だと考える。

BTC/USD(2017年)

BTC/USD(2017年)

BTC/USD(2021年)

BTC/USD(2021年)

BTC/USD(2025年)

BTC/USD(2025年)
出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

暗号資産戦略準備

 最後に、脱稿直前に出てきた米政府の戦略準備とトランプ大統領主催の暗号資産サミットの影響について述べる。大統領はサミットの前日である7日に大統領令に署名し、概要は以下の通りである。

1 戦略的BTC準備(Reserve)創設
・米政府が犯罪などで押収した20万BTCで創設、売却しない
・追加予算を発生させない形で追加購入
2 戦略的デジタル資産備蓄(Stockpile)創設
・米政府が犯罪などで押収したアルトコインで創設、当面売却しないが、売却の可能性あり
・追加購入しない
各種資料から著者作成

 ただし、この発表後にBTCは下落し、失望売りとされた。この「失望」について追加購入が見込めず、需給に与えるインパクトに欠けるとの説明を耳にするが、予算措置が必要な追加購入が大統領令では出せないことは、誰もが認識していたはずなのでやや違和感がある。

 本当のところ、市場が「失望」したのは期待感で買いが先行したが、この材料で思ったほど相場が上昇せず、利食いに失敗したからではなかろうか。典型的なポジション調整だと考える。

 その後のサミットでも、トランプ大統領はBTCをデジタルゴールドと位置づけ、決して売らないとコミットした。相場が下がったからといって、これ自体を売り材料とするのには無理がある。

暗号資産サミットでの大統領発言要旨
・デジタルゴールド
・デジタルフォートノックス(フォートノックス:米政府ゴールド貯蔵庫)
・決して売らない(Never sell your bitcoin)
・納税者に負担がかからない形で追加購入
・チョークポイント2.0を終わらせる
・ステーブルコイン法案の8月までの成立に期待
ベッセント財務相の発言
・外貨準備における米ドルの地位を守るためにステーブルコインを利用
各種資料から著者作成

 米政府が正式にデジタルゴールドと認め、資産として自ら保有し始めたことは、投資家や一般企業のBTC保有に向けたこれ以上ないお墨付きとなる。さらに、外貨準備として外貨をあまり持っておらず、ほとんどを金で保有している米国にとって、この動きは実質的に米国がBTCを外貨準備に加えたことに等しい。

 この動きに追随する国が世界中に現れることは想像に難くない。実際、CNBCは中国や中東が興味を持ち始めていると報じている。また、一部で難航している州政府による戦略準備創設にも追い風となろう。

 このように、現在の失速は本格上昇局面の中でのポジション調整と考えている、ただ、過去の例から見て、3割弱の調整の場合はすぐにでも回復しているが、それ以上、4割から5割の調整の場合は市場心理が回復するまで数カ月から半年程度要しており、ここで下げ止まるかが焦点となりそうだ。

公的資金でBTCを購入ないし検討している州

公的資金でBTCを購入ないし検討している州
赤:否決・廃案 黄:上院下院片方通過 青:法案提出・検討段階
Bitcoin Reserve Monitorより楽天ウォレット作成