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著者の窪田 真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
株主優待で人気のJR4社。一押しは、JR東日本

リオープンで新幹線・観光事業が回復、JR4社に追い風

 株主優待で人気のJR4社(JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州)は、コロナ禍で業績に大きなダメージを受けました。今、コロナからのリオープン(経済再開)が進み、外国人観光客の来日者数が過去最高を更新する中、業績回復が鮮明になってきました。

<JR4社の株価指標:2025年3月7日時点>

JR4社の株価指標:2025年3月7日時点
出所:各社決算短信およびQUICKより楽天証券経済研究所が作成。配当利回りは、2025年3月期1株当たり配当金(会社予想)を3月7日株価で割って算出。1株配当金は、JR東日本52円、JR東海30円、JR西日本74円、JR九州93円

 私は、コロナ禍で業績が落ち込んでいた時も含めて、JR各社は長期投資で買って良いという判断をレポートでお伝えしてきましたが、その確信を強めています。中でも、JR東日本(9020)の投資価値が一番高いと考えています。

 本来ならば、JR4社の中で新幹線比率が一番高いJR東海(9022)の投資価値が一番高いと判断すべきですが、リニア新幹線の工事が遅れているリスクを考慮し、JR東海への投資にはやや慎重姿勢です。

<JR4社の連結営業利益推移:2018年3月期-2025年3月期(会社予想)>

JR4社の連結営業利益推移:2018年3月期-2025年3月期(会社予想)
出所:各社決算資料より楽天証券経済研究所が作成

 今、JR東日本に注目するのには、三つの理由があります。

【1】日本で観光ブームが復活、国内旅行者・外国人旅行者が同時に増えている

 コロナ禍からのリオープン(経済再開)が進み、観光業・イベント産業が急速に盛り上がりつつあります。その恩恵で、JR各社の新幹線、観光列車、ホテル事業などの収益が急回復しています。

 日本人による海外旅行の戻りはまだ鈍いですが、日本人による国内旅行が増えています。また、外国人による日本旅行が急速に増えています。

<訪日外国人数の推移:2003~2025年>

訪日外国人数の推移:2003~2025年
出所:JNTO(日本政府観光局)より楽天証券経済研究所が作成

 訪日外国人数は、2019年の3,188万人をピークに、コロナ禍によって3年間(2020年、2021年、2022年)大幅に落ち込みましたが、2023年から急回復しました。2024年にはコロナ前のピークを超えて、過去最高の3,687万人が来日しました。

 訪日外国人数の増加は、2025年に入っても続いています。2025年1月は前年同月比40.6%増の378万人が来日し、単月で過去最高となりました。

 その恩恵を一番受けるのが、新幹線事業です。JR各社の新幹線利用率のさらなる上昇が期待されます。

【2】新幹線が成長をけん引。不動産業、観光業、小売業など多角化でも稼ぐ

 コロナ前、新幹線の収益拡大が、成長をけん引してきました。また、後段で解説しますが、JR東日本は実質日本最強の不動産会社と私はみています。不動産・観光・小売業など多角化で稼ぐ力を持つことが、投資魅力を高めています。

【3】株価の戻りが遅い

 JR各社ともコロナからの回復が鮮明になりつつありますが、株価の戻りは以下の通り、鈍いままです。

<JR4社株価と日経平均の比較:2019年末~2025年3月7日>

JR4社株価と日経平均の比較:2019年末~2025年3月7日
出所:2019年末の値を100として指数化、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 株価の戻りが鈍いのは、JR東日本・西日本・九州については、利益がまだコロナ前の最高益に届いていないことが原因といえます。

 JR各社の2025年3月期連結営業利益(会社予想)は、ピーク比で83%(JR東日本)、93%(JR西日本)、103%(JR東海)、93%(JR九州)と低いままです。JR東海は、今期最高益を更新する見込みですが、それでもリニア中央新幹線の工事が遅れているリスクが懸念されて、株価は低水準です。

 新幹線・観光ビジネスの回復が早い一方、在来線の利用回復が遅れている影響もあります。出社比率の回復で、都市部の利用は増えているものの、コロナ禍で根付いた在宅勤務やリモート会議の影響で、通勤や出張の利用は、完全には元には戻らないと考えられます。また、電気料金や人件費などのコスト増も影響しています。

JR4社で一押しはJR東日本。ファンドマネージャー時代に大好きだった

 私がファンドマネージャー時代に大好きだった銘柄に、JR東日本があります。今でも、好きです。

 何が良いかというと、地味で面白みのない銘柄に見えて、実は、次々と新しいビジネスを開拓し、コロナショック前までは、安定的に最高益を更新していたパフォーマンスの良い銘柄であったことです。新幹線を核とする鉄道業はもちろん、観光・不動産・小売・金融ビジネス、それぞれに成長期待がありました。

 ファンドマネージャー時代にJR東日本に単独取材に行き、経営戦略について1時間あまりディスカッションしたことがあります。その時、一番印象に残っているのは、先方の以下の言葉です。「1年2年では大きな変化のない会社ですが、10年ごとに大きく変化を遂げています」。その通りだと思いました。

 実際、JR東日本は10年ごとに大きな変化を遂げ、2019年3月期までは、安定的に最高益を更新してきました。最高益更新のドライバーは、新幹線でした。人口の増えない日本で、鉄道業は成熟産業とみられていましたが、新幹線収入の拡大によって、JR各社は、安定的に最高益を更新してきました。

 新幹線は、かつてビジネス客中心の乗り物でしたが、コロナ前には「国民の足」として、利用が拡大してきました。そこに、外国人観光客の利用拡大が追い風となっていました。グリーン席の利用率増加も、収益拡大に寄与していました。

 JR4社の中で、JR東日本に特に強みがあるのが、「多角化」です。東京を地盤に持つ強みに加え、不動産、小売、観光、金融など多角化事業で利益を伸ばしていく余地が大きいと考えています。

 ちなみに、2024年3月末時点で、JR東日本は、賃貸不動産に1兆6,232億円もの含み益を有します。含み益の大きさで、三菱地所、住友不動産、三井不動産に次いで第4位です。コロナ禍を受け、都心の不動産需給は緩みつつありますが、それでも過去8年間の不動産ブームで膨らんだ含み益は大きく、JR東日本の投資価値を高める効果があります。

 私は、JR東日本は事実上、日本最強の不動産会社だと思っています。日本の不動産価格は、JR駅前が一番高く、駅から遠ざかるにつれて安くなる傾向があります。

 JR東日本は、首都圏でもっとも価値の高いJR駅周辺に豊富な土地を有するので、不動産会社として圧倒的に優位です。鉄道事業で使わなくなった土地を再開発して、オフィスビルの保有を増やしてきました。立地抜群で競争力が高く、土地取得コストがかからないので収益率も高くなります。

 リモートワークの広がりで都市部の不動産価値がやや低下しているものの、それでも都心一等地の不動産の価値が高い事実は変わらないと思います。

 JR東日本は、規制緩和によって、駅ナカや線路上空が利用できるようになってきたメリットも受けています。駅ナカに展開する「ルミネ」など小売ビジネスは、高い競争力を有します。自前で小売業をやるのでなく、抜群の立地を有する小売スペースの管理者として、その時々で一番はやっている専門店を入店させていくので、ある意味、最強の小売業といえます。

 リゾート・観光業でも成長余地があると思います。コロナ禍で中断されていた、観光業の成長が新たに始まると考えています。JR九州が2013年に導入した豪華寝台列車(クルーズトレイン)「ななつ星in九州」の旅はコロナ前、常に高人気でした。従来の寝台列車とは異なり、動くホテルのような快適さが受けています。

 JR九州の成功を見て、JR西日本・東日本も豪華寝台列車の旅を導入しましたが、いずれも好評でした。私の勝手な予想ですが、将来的にJR各社が提携して豪華寝台列車を使って全国をめぐる長期旅行が売り出されると思っています。そうなれば、さらに高い人気を集め、4社の収益拡大に寄与すると考えています。

株主優待も魅力的なJR4社

 機関投資家にはメリットがないので、ファンドマネージャー時代には注目したことがありませんでしたが、JR4社が実施している株主優待は、個人投資家には魅力があります。

 JR4社は、運賃・料金の割引券などや、自社施設などの割引利用券などを、株主優待品として株主に贈呈しています。旅行好きの個人投資家に好評です。

 コロナ禍で、国内・海外とも旅行が控えられている間は、株主優待の利用価値も低下していましたが、これから、また価値が戻ると思います。

JR東海への投資に慎重な理由

 事業に占める新幹線の比率が一番高いJR東海は、本来ならばJR4社の中で一番投資価値が高くなるはずでした。ところが、リニア中央新幹線の建設を進めていることが重大なリスクとして意識されるようになっています。

 リニア中央新幹線は、当初2027年までに東京~名古屋が開通し、2045年までに大阪まで延伸される予定でした。ところが、大井川水源への影響をめぐる議論から、静岡県で工事が止まったままです。その影響から、2027年の名古屋までの開業は不可能となり、早くても2034年以降と考えられています。その先、大阪までの開業はさらに遅れる可能性があります。

 工事の遅れ・開業時期の遅れによって、JR東海には想定外のコストが発生します。それがJR東海への投資に慎重にならざるを得ない理由です。

 リニア中央新幹線が早期に開業すれば、新たな需要が掘り起こされ、JR東海の成長につながると期待されていました。日本国内でリニア営業の実績を積めば、将来、海外にリニア新幹線事業の輸出も可能になる期待がありました。ところが、それはかなわなくなりました。

 大阪まで開業すれば、東京~大阪の航空需要を一部代替していくことも期待されます。その時期が遠のいていることが、JR東海にとって、重大なリスクとなっています。