一度は減った株主優待、2024年は増加傾向に

 株主優待の多くは日本国内でしか使えない商品やサービスであることに加え、優待に充てる分だけ配当が減るという見方もあるため、コロナ禍以前から、海外投資家から「公平感を欠く」との指摘も受けており、株主優待は減少傾向にありました。

 加えて、コロナ禍の影響で業績が悪化する企業が増えたことにより、優待制度の廃止や縮小に踏み切る企業が増えました。

【株主優待を新設した企業数】

株主優待を新設した企業数
出典:大和インベスター・リレーションズ株式会社「株主優待の最新トレンド2025年1月」

【株主優待実施企業数】

株主優待実施企業数
出典:大和インベスター・リレーションズ株式会社「株主優待の最新トレンド2025年1月」

 ただ、上記グラフでも分かるとおり、2024年以降、優待を申請、再開、拡充する企業は増加傾向にあります。9月時点で、過去1年間に株主優待を新設した企業は107社となり、参照したデータで確認可能な2013年以降では2番目に多い水準となりました。また実施企業数は3年連続で上昇しています。

なぜ株主優待を導入する企業が増えているのか?

 株主優待を導入している企業が増えている要因として、「安定株主の確保」「持ち合い株解消」「新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)導入による個人投資家の増加」「上場基準の厳格化」などが挙げられます。こうした背景から、株主優待を新設・強化し、長期保有を促す企業が増えています。

理由1:安定株主の確保

 企業が株主優待を導入する大きな理由の一つは、安定株主の確保です。配当だけでなく自社商品などの特典を提供し、投資家の満足度を高めることで、長期的な自社株保有を促せます。

 企業側にとっては株価の乱高下を抑えられ、安定した経営基盤を築きやすくなるでしょう。

 また、企業とのつながりを感じやすくなるため、投資家との関係強化にもつながります。株主優待は、企業に愛着を持ってもらい、企業価値向上に寄与すると考えられています。

理由2:持ち合い株解消のため代替株主を探している

 従来は企業同士がお互いの株式を持ち合うことで、安定株主を確保していました。しかし、金融庁は持ち合い株の存在について「公正な競争を阻害する要因になる」という指摘を行ったことに加え、資本効率やガバナンス強化などの観点から、持ち合い株解消が進んでいます。

 その結果、企業は長期的に株式を保有してくれる株主の確保が急務となり、株主優待を通じて投資家に安定的な保有を促す戦略を取るようになりました。

理由3:新NISA導入により個人投資家に注目するようになった

 2024年に導入された新NISAは、非課税投資枠や非課税期間など大幅に条件が拡充されました。金融庁によると、2024年9月末時点のNISA口座数は、2023年12月末対比で18%増加となる2,508万口座に増加しています。

 こうした個人投資家を取り込みたい企業は、自社株を長期保有してもらう目的で、株主優待を強化・新設する動きを活発化させています。

 株主優待は配当と異なる付加価値を提供し、消費面に直接メリットをもたらすため、投資家の注目を集めやすい点も個人投資家に注目している理由といえるでしょう。

 また著名投資家やメディアの影響力もあり、注目されている株主優待は特に個人投資家に人気がある点も導入が進んでいる一因と考えられます。

理由4:上場基準厳格化への対応

 2022年4月に東京証券取引所の市場区分が再編され、上場維持基準が厳格化されました。一定の株主数や流動性を維持できなければ上場区分の変更や上場廃止のリスクが高まります。

 そのため、株主数の確保が急務となった企業が、個人投資家を引きつける目的で株主優待を導入し、株主数の確保・拡大を図る動きが顕著になっています。

新設優待に要注意!中には「即止め優待」も!

 株主優待は魅力的な特典として注目を集めやすい一方で、その内容だけに注目しすぎると企業の本質を見落とす可能性があります。

 上場の維持を目的として優待を導入し、目的が達成されたり、優待自体が経営を圧迫されたりして、廃止する企業も存在します。基準ぎりぎりの会社が、上場基準を達成するために個人株主を増やすことを目的として優待を導入するケースも増えていると思われます。

 このため、株主数が上場基準を達成したらすぐに優待を廃止したり、逆に想像以上に株主が増え、優待品の手配や発送料などの優待コストがかさんでしまい優待を廃止する、などの事態も起こり始めています。

 優待の廃止や内容の改定に伴う株価下落リスクも大きいため、経営状況や方針を十分に検討し、たとえ優待がなくても応援したいと思える企業かどうかを見極めることが大切です。

 優待はあくまで付随的な要素と位置づけ、特に新興企業が上場したばかりの優待導入などは、さまざまな出来事を想定して投資するかしないかを注意深く検討しましょう。

QUOカードを優待品に採用する企業が増えている

 最近の株主優待では、優待品としてQUOカードやデジタルカードを採用している企業が増加傾向にあります。2025年2月17日時点で過去60日間に新設された優待を調べると、30社中11社がQUOカード、2社がデジタルカードを採用していました(2月17日に大和インベスター・リレーションズの「株主優待ガイド」をもとに集計)。

 株主優待には利用期限が設けられている場合があり、多くの株主優待を受け取っている投資家の中には「使い切れない」という声も少なくありません。

 QUOカードは有効期限がない上、全国約6万店で利用できるなど使い勝手が良く、企業の導入が増える要因となっています。

 さらに、券面に企業ロゴやメッセージが入れられてブランドイメージを訴求できる点も、企業側にとって大きなメリットです。

株主優待の選び方

 では、急増する株主優待銘柄の中から、自分の投資スタイルに合う銘柄を選ぶには、どのような基準で選べば良いのでしょうか? ここではポイントを二つご紹介します。

ポイント1:自身が頻繁に使っている企業が提供している優待を選ぶ

 日頃からよく利用する企業の優待であれば実用性が高く、日常生活の出費を抑えられるメリットがあります。

 例えば頻繁に行く飲食店やスーパーの優待なら、日々の買い物や外食でお得感を得やすいでしょう。

 また、企業とのつながりを感じられるため応援意識が強まり、結果的に長期投資につながりやすい点も魅力です。さらに商品・サービスの品質を実際に確認できるため、企業の成長性を見極める上でも役立ちます。

ポイント2:将来性がある企業を選ぶ

 企業業績の変動により株主優待が廃止されたり、内容が改悪されたりする可能性があります。将来的に成長が見込める企業を選ぶことで、優待によるメリットだけでなく株価上昇による利益も期待できます。

 また、長期的に成長が見込めない企業では、株主優待が廃止または改悪される可能性もあるため、IR資料や決算書のほか、ビジネスモデルや財務の健全性、社会的評価なども確認し、長期的視点で投資先を選ぶことが大切です。

まとめ

 コロナ禍で一時は減少傾向だった株主優待が、企業側による安定株主の確保や新NISAの導入を背景に再び増加しています。しかし、QUOカードなど使い勝手の良い優待も広がり、個人投資家の注目を集める一方で、廃止や改悪リスクもあります。銘柄選びの際には、企業の業績や方針を見極めて、長期的に応援したいと思える会社かどうかを見定めましょう。