「掘って掘って、堀りまくれ」―この大袈裟なキャッチフレーズはともかくも、トランプ大統領のもと、米国の環境政策と優遇措置が見直される方向だが、それがPGM需要にもたらす影響は全体として概ねポジティブになるだろう。電気自動車の普及が鈍化すればPGM需要が増えるからで、米国のバッテリー電気自動車(BEV)のシェアが1%減るごとに2E PGM需要は775キロ増え(図1)、これが水素関連のプラチナ需要の減少を十分に補えるはずだ。これまでトランプ大統領の政策がPGM需要に与える影響について、まず関税政策、次に経済全体についてそれぞれ見てきたが、本稿はその第三弾となる。

 トランプ大統領は以前から気候変動に対して否定的な姿勢をとっており、米国はすでにパリ協定から再び離脱した。国内の石油および天然ガスの増産を促す方針を掲げてOPECにも石油価格を下げるために生産を増やすよう催促。さらにインフレ抑制法(IRA)の環境関連の支援策などを凍結、排ガス規制も緩和するとしている。米国が普通乗用車の排ガス基準値目標を達成するにはBEV購入に対する補助金、充電設備やEV関連産業の促進などが必要で、IRAの支援策がなければ目標達成は困難になるだろう。排ガス規制に対するトランプ大統領の具体的な提案は明確ではないが、現在の環境保護庁(EPA)の規制では、普通乗用車は2026年までに排出量を56%、小型商用車は203年までに44%をそれぞれ軽減しなければならない(図2)。

図1.BEV普及率の鈍化でPGMの需要は増加

BEV普及率の鈍化でPGMの需要は増加
出典:WPICリサーチ

図2.44〜56%の排ガス軽減目標は緩和される可能性

44〜56%の排ガス軽減目標は緩和される可能性
出典:米環境保護庁、WPICリサーチ

 EPAは2032年までに普通乗用車のBEVのシェアが30〜56%に、小型商用車のBEVシェアが20〜32%にならなければ排ガス基準値の目標達成は不可能としている(図6)。BEV支援策が縮小されれば、PGM、特にパラジウムの需要は恩恵を受ける(図5)。米国の消費者は大型車やピックアップトラックを好むため、他のどの地域よりも車一台の触媒装置に使うパラジウムの平均量が多い(図3)。車一台につき平均5.6グラムの2E PGM、その約8割がパラジウムだと考えられるが、エンジン車およびハイブリッド車の普通乗用車のマーケットシェアが1%増えれば、プラチナは約155.5キロ、パラジウムは約622.0キロ、それぞれ需要が増える計算だ。

 IRAはEV市場拡大に重要な役割を担うのと同時に、水素経済の促進においても重要な法的枠組として位置付けられ、同法の45V条ではグリーン水素生産には最大3ドル/キロの補助金を支給する。しかし、我々は以前から同条の追加性(アディショナリティ:3年以内に稼働開始施設のみ)、地理的・時間的相関性(水素生産の電源は同地域、同時間内)という条件は厳しすぎ、他の地域に比べて米国のグリーン水素生産の発展を妨げると指摘してきた(図7)。いずれにしろグリーン水素に対する援助がなくなれば、我々の米国のPEM水電解装置普及予測も訂正しなければならないが、今の時点では2028年までに米国の水電解能力は約5GWで1.36トンのプラチナ需要を生むという予測だ(図8)。

トランプ大統領は排ガス規制緩和やIRAの環境支援凍結など環境政策を見直すと発表

BEVの普及鈍化がもたらすPGM需要増は、グリーン水素関連のPGM需要減を補う

投資資産としてのプラチナを支える背景

-WPICのリサーチによると、プラチナ市場は2023年から供給不足が続き、2028年までに地上在庫がなくなる可能性
-プラチナ供給は南アの鉱山供給減とリサイクル率の低下で問題多い
-プラチナ需要は多種多様な分野にまたがる
-プラチナは世界のエネルギー転換に必要な水素経済に重要な役割を果たす重要鉱物
-プラチナ価格は長い期間過小評価が続きゴールドよりも大幅な割安

図3:米国の消費者は大きいガソリン車を好むためBEV普及率は世界平均を下回る

米国の消費者は大きいガソリン車を好むためBEV普及率は世界平均を下回る
出典:Global data、Kelley Blue book、WPICリサーチ 注:普通乗用車と小型商用車の合計

図4:北米の消費者は大きなガソリン車を好むため、触媒装置のパラジウムの使用量は平均して多い

北米の消費者は大きなガソリン車を好むため、触媒装置のパラジウムの使用量は平均して多い
出典:WPICリサーチ 注:普通乗用車と小型商用車の合計

図5:自動車の2E PGM需要の20%は北米で、プラチナよりもパラジウムが多い

自動車の2E PGM需要の20%は北米で、プラチナよりもパラジウムが多い
出典:メタルズフォーカス(2024年)、WPICリサーチ

図6:現行法では2032年までに普通車のBEVのシェアが23〜37%に達しなければならない

現行法では2032年までに普通車のBEVのシェアが23〜37%に達しなければならない
出典:米環境保護庁、WPICリサーチ *小型商用車が8割、普通車が2割とした場合

図7:2030年までの米国の水電解能力は世界の5%を占めるにとどまるとされる

2030年までの米国の水電解能力は世界の5%を占めるにとどまるとされる
出典:国際エネルギー機関、The Orange Company、WPICリサーチ

図8:米国の固体高分子型水電解装置のプラチナ需要予測はそれほど多くない

米国の固体高分子型水電解装置のプラチナ需要予測はそれほど多くない
出典:国際エネルギー機関、WPICリサーチ

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