令和7年度税制改正大綱が公表され、確定拠出年金(DC)の拠出限度額引き上げが盛り込まれました。
「iDeCo改正!NISAとiDeCo、優先順位は変わるのか?」でもご説明しましたが、今回の改正を受けてiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)とNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の利用可能額は合計するとかなり大きくなるため、使い分けに迷ってしまう人も多いのではないかと思います。
iDeCoは掛金を拠出する時点で全額が所得控除になるメリットがありますが、そのメリットを生かすため、できる限り優先してiDeCoを使うべきなのでしょうか。今回は、iDeCoの枠をいっぱいまで使い切るべきかについてご説明します。
※本記事は、2025年2月時点で令和7年度税制改正大綱を前提として執筆しているため、今後の国会での審議によっては実際の改正内容が異なる可能性があります。
税制改正でiDeCoの拠出限度額が大幅引き上げに
今回の税制改正では、次の図のようにiDeCoの拠出限度額が大幅に引き上げられる見込みです(企業型DC利用者はその掛金額との合計)。

iDeCoの拠出限度額(月額)は、
- 第1号加入者(個人事業主など)は6.8万円から7.5万円
- 企業年金のある第2号加入者(会社員・公務員)は2万円から6.2万円(ただし企業型DC含む)
- 企業年金のない第2号加入者(会社員)は2.3万円から6.2万円
に引き上げられます。
企業年金のあり/なしにかかわらず、第2号加入者の方の限度額が大幅に引き上げられる形になります。
現在のiDeCoの加入者数と実際の拠出額
拠出限度額が大きく引き上げられるわけですが、実際に増額できそうな人はどのくらいいるのでしょうか。
iDeCoの加入者数(2024年12月末)は全体で約354万人となっており、第1号が約37万人、第2号が約300万人、第3号(専業主婦/主夫)が約15万人となっています。中でも全体の約85%を占める第2号加入者の詳細について確認すると、次のようになっています。

企業年金のある人(公務員を含む)は、企業年金などの掛金額に応じてiDeCoの拠出額が下がりますが、企業年金のない人はiDeCoのみで6.2万円まで拠出できる形になります。これら企業年金のない加入者は約177万人で、第2号加入者全体の約6割と、多くの方に影響がありそうです(ちなみに、筆者もその一人です)。
現在すでに加入している人は、実際にどのくらい掛金を拠出しているのでしょうか。次の表は、「加入者の掛金額階層別分布・平均掛金額(毎月定額拠出)」で、掛金額の金額帯別に何人いるかを示しています。
企業年金のない第2号に注目すると、「1万円未満」「1万円~」「1万5,000円~」の合計で約72万人、「2万円~」が約102万人となっています。

企業年金のない第2号加入者の掛金額上限は現在2万3,000円であり、掛金額は1,000円単位での設定になりますから、「2万円~」の人は2万円、2万1,000円、2万2,000円、2万3,000円のいずれかになります。さらなる詳細なデータは開示されていないため不明ですが、この約102万人は、上限となる2万3,000円を拠出している人が多いのではないでしょうか。
また、企業年金のある第2号加入者や、共済組合に加入している公務員は「1万円~」と「2万円~」の人が多くなっていますが、2024年12月からこれらの人の拠出限度額が1万2,000円から2万円に引き上げられました。
表のデータは2024年12月時点でのものになりますので、その改正を受けて拠出額変更の手続きをしていない人もいるでしょうから、このあたりの人たちも、令和7年度税制改正が実現するとさらに増額する可能性がありそうです。
iDeCoの掛金は月額6万2,000円の上限まで拠出すべきなのか?
家計状況に応じて、一人ひとり追加で拠出できる金額は異なると思いますが、拠出限度額が引き上げられた場合、最大限引き上げるべきなのでしょうか。
次の表は、掛金を月額6万2,000円拠出した場合に、運用利回りに応じて、10年後、20年後、30年後、40年後の各時点でいくらになるかを試算したものです。現在50代の方は10年後くらい、40代の方は20年後くらい…といった形でイメージしていただければと思います。
月額6万2,000円を拠出した場合の運用利回り別の将来の評価額

実際の値動きには価格変動リスクがあることにご留意ください。
利回りは、0%、3%、5%、7%の4パターンで計算しています。運用期間にもよりますが、世界株式インデックスファンドなどをイメージすると現実的には5%程度と見ておけばよいでしょう。
運用利回り5%の場合、40年後は9,229万円、30年後は5,075万円となり、老後資金としては金額が大きすぎる可能性もありそうです。この場合、40年なら拠出額合計は2,976万円、30年でも2,232万円となりますので、iDeCoのお金が引き出し可能となる60歳以前で、これだけの金額の支出を我慢しなければならないことになります。
一方、運用利回り5%で20年後まで運用できた場合は2,526万円となり、40代からiDeCoを開始したとしても、月額6万2,000円を拠出できれば老後資金の準備が間に合うという人も多そうです。
50代の方の場合、運用利回り5%で10年後まで運用できた場合は960万円となり、運用期間が短いため、拠出額合計744万円に対して含み益の金額(216万円)はそれほど多くはありません。
しかし、50代の方は所得税率が高い可能性もあり、その場合は所得控除の税制メリットを取りつつ、課税の繰り延べをしていくという考え方ならiDeCoのメリットを十分に受けられることになります。
今回の拠出限度額引き上げでiDeCoの魅力が大幅にアップ
今回の拠出限度額引き上げが実現すると、企業年金のない第2号加入者は、所得控除となる金額がこれまでの年間27.6万円から年間74.4万円へと大幅にアップすることになります。所得控除は短期的には所得税・住民税の節税になるため、大きなメリットです。
ただし、iDeCoは一度拠出すると原則として60歳まで引き出せないため、60歳以前のライフイベントなどで活用することができなくなります。
ご自身のライフプランや家計状況を踏まえた上で、iDeCoのメリット・デメリットをよく確認、NISAとも比較しながら、NISAとiDeCoをバランスよく併用していくのがいいのではないでしょうか。どちらも非常に魅力的な税制優遇制度ですので、しっかり活用していくのがおすすめです。