バフェットは「株主への手紙」で現金を大量に積み上げている理由を明らかにしていない
先週末、ウォーレン・バフェットの「株主への手紙」が公開された。バフェットは毎回楽観的な見通しを述べてはいるが、一方で、2022年後半から9四半期連続で記録的な量の株式を売却している。
「多くの場合、魅力的なものは何もなく、チャンスに膝まで浸かっていることは非常にまれだ」と述べ、記録的な現金残高を築いただけでなく、2024年第4四半期には自社株買いも行っていない。
自社株買いが行われなかった四半期は2四半期連続となる。第3四半期にバフェットは「自社株買い価格が本質的価値を下回ると判断した時点で自社株買いを再開する」と述べたが、バークシャーの年度ごとの自社株買いは以下のようになっている。
2024:$2.9B
2023:$9.2B
2022:$7.9B
バフェットは事実上、バークシャーの自社株に対しても割安ではないと言っていることになる。現状ではバフェットは自社株を買うよりも5%の米国短期国債を買うことを選好しているのだ。
バフェットは公開された「株主への手紙」の中で、次のように述べている。
一部の評論家はバークシャーが異常な現金保有を積み上げていると見ているかもしれないが、株主からの資金の大部分は依然として株式に投資されている。この方針は今後も変わらない。昨年、市場性株式の保有額は減少したが、非公開株式の価値は増加し、市場性ポートフォリオの価値をはるかに上回る水準を維持している。
バークシャーの株式活動は両利き的だ。一方では、多くの企業の支配権を握り、投資先の株式の少なくとも80%を保有している。通常は100%保有だ。これら189の子会社は、市場性のある普通株式と類似点があるが、同一ではない。その総額は数千億ドルに上り、その中には数少ない優良銘柄もあれば、多くの優良銘柄、素晴らしいとは言えない事業、期待外れの後れを取っている企業も含まれている。
愚かな財政政策がまん延すれば紙幣は価値を失う。固定クーポン債は、通貨の暴走に対する保護にはならない(バフェットが短期国債しか買わない理由)。アメリカも危機に瀕している。安定した通貨を維持するためには知恵と警戒心の両方が必要だ。
バフェットは「株主への手紙」で現金を大量に積み上げている理由を明らかにしていないが、9四半期連続で記録的な量の株式を売却しているように、現状の米国株式市場に対して強気ではない。
一方で、「株主への手紙」では、日本の商社株保有を「時間をかけて」増やす可能性が高いとの見方を示した。日本の5大商社(伊藤忠商事、丸紅、三井物産、住友商事、三菱商事)への投資について、各社の株式保有上限は10%未満としていたが「上限を適度に緩和することで5社は合意した」と述べている。
三菱商事(日足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
三菱商事(週足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
株の長期投資で成功するには?
「史上最高の投資家、ジェシー・リバモアは長期的には相場では決して勝てないと言ったと伝えられている。相場に決して勝てないという考え方は驚くべき見方だ。だからこそ私の哲学は巧みな防御なのだ。自分が超人的な洞察力を持っているなどと思ってはいけない。常に自信を持っていなくてはならないが、注意を怠ってはいけない」と、ポール・チューダー・ジョーンズは『マーケットの魔術師』の中で語った。
投資において、長期的な成功を果たしたのかそうでなかったのかを分けたのは、「いつ相場をスタートさせたか?」ということに尽きる。
ウォーレン・バフェットは1942年に投資をスタートし、1965年にバークシャー・ハサウェイを買収した。ポール・チューダー・ジョーンズは1980年にヘッジファンドを立ち上げた。ピーター・リンチは1977年からフィデリティ・マゼラン・ファンドを運用している。
これら偉大な投資家たちの成功は、低いバリュエーションと高いフォワード・リターンを伴う強気サイクルの始まりを捉えたことによる。
S&P500種指数と歴史的なイベント

出所:リアルインベストメントアドバイス
バークシャー・ハサウェイ株は現在、史上最高値近辺で取引されている。バークシャー・ハサウェイA株は、バフェットが就任して以来5,502,284%上昇し、同じ期間のS&P500種指数の+39,054%のリターンを上回った。
バークシャー・ハサウェイA株(月足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
バークシャーのパフォーマンスとS&P500の推移のパフォーマンス(1964~2024年)

株式市場は短期的には重力の法則に逆らって動くように見えるかもしれないが、その後の極端な揺り戻し(平均回帰)は、リスクを軽視した投資家の破滅的な損失につながっている。
S&P500(月足)(1994~2025年)

出所:石原順
弱気相場の下落の多くはFRB(米連邦準備制度理事会)が軸足を移した後に起こった

株式市場では本質的に、大きな強気相場の後には必然的に大きな弱気相場がやってくる。これは過去の例から明らかだ。市場サイクルの前半でもうけるのは簡単だ。後半にそれを維持するのが難しい。
ポートフォリオの大幅なドローダウン(運用成績の落ち込み)を防ぐための管理とは、下げ相場の被害を避けるために、上げ相場の一部を放棄することを意味する。ポートフォリオが壊滅的な損失を被った場合、ポートフォリオはいつか元の状態に戻るかもしれないが、その間に失った貴重な時間は決して取り戻すことはできない。