今回のサマリー

●2025年初めの「トランプ2.0下では米金利高で円安」とのコンセンサス予想を裏切る展開に
●足元の円高はどこまで行くのか、その条件・尺度とは?
●円は構造的に弱まっており、もはや円高にならないという指摘は、誤解含みで誇張的
●適切な相場対応、改革努力には、円の実力、日本の身の丈をきちんと理解する必要

予想を裏切る円高

 2025年のスタート時、市場は「米景気はしっかり、インフレは下げ渋り」という見方がもっぱらでした。経済指標が強振れがちで、あえて弱気予想を導く根拠もありませんでした。そこに第2次トランプ政権が発足。その高関税策はインフレを促し、規制緩和や減税は景気堅調を持続させ、財政赤字の拡大は債券金利を高めるとの思惑がくすぶりました。米金利が高まるなら、ドル/円は上昇、すなわち円安になるとの見方が当然優勢になります。

 ところが、米国債金利は予想に反して低下しています(図1)。10年金利は、1月半ばに一時4.8%まで上昇したものの、2月25日には4.3%を割り込んでいます。ドル/円も米金利の方向に沿って、1月に一時160円をうかがおうかという流れでしたが、足元では150円を割れています。

図1:ドル/円と米日主要金利

ドル/円と米日主要金利
出所:Bloomberg、田中泰輔リサーチ

ドル/円を読む尺度

 円相場の話になると、日本衰退による円安、国際収支による円安など、時間軸の異なる相場論が混在しがちです。しかし、図1の通り、金利によってここまで短期・中期の円相場の動きを説明できるのです。投資家として円相場に関わるなら、金利を尺度に見るのが当然であり、適切といえます。

 最近の変化として、一応留意しておきたいのは、日本の金利の影響です。日本の金利は長年にわたって0%近くを底ばいが続いていました。このため、ドル/円の予測分析では、日本の金利を無視して、米金利だけ見ればOKとしてきました。

 1月に、日本銀行の利上げ志向が再確認されると、日本国債の10年金利は1%台半ば近くまで上昇。ここまで来ると、円相場への影響を「米金利8:日本金利2」程度に案分して見る必要があります。米日金利差を計算すれば、この案分を気にしなくても、およそ大丈夫でしょう。

 ただし、米金利の影響度の優位性は変わりません。米金利軟化時に、日銀が利上げ姿勢を見せると、相乗作用で円高促進的にはなります。他方、米金利上昇時に、日銀が利上げ姿勢を見せても、円安動意を部分的に抑える程度と見込まれます。

どうなる、円高

 最近のドル安円高は、まず米債券金利の低下で方向付けされ、日本金利の上昇で促された格好です。米金利低下は、トランプ2.0の段階的になりそうな高関税の見通し、ベッセント財務長官による財政赤字削減の意向表明、米の原油・天然ガス増産、中東と露・ウクライナの戦争収束などの思惑が指摘されます。

 この間に、米国の雇用やインフレの指標が強振れて、金利反発かと警戒する場面もありました。しかし、どうもトランプ2.0下での金利上昇をはやしてきた債券ショート筋が、腰を据えて相場に取り組めなくなっていることが、指標の変化に対して金利が素直に反応しなくなっている理由の一つと考えています。トランプ大統領は、突飛な政策を表明し、それを朝令暮改のように変転させるため、投資家は相場のはしご外しを警戒して、腰を据えてポジションを保持しにくくなっています。

 ドル/円は、米金利次第ではあっても、現時点で「2025年の金利・為替はこうなる」という特定の予想に肩入れするのは困難です。市場はもとより、金融政策をつかさどるFRB(米連邦準備制度理事会)も分からないのですから、市場が織り込む金利観に是々非々で対応するのみです。

 要は、「米金利がこうなるならドル/円はこうなる」というメドを頭に入れておき、経済指標や政策の動向を踏まえて、淡々と必要な相場対応を進めるということです。

円の水準感

 実は、筆者は、2024年末に経済誌から依頼された2025年の為替予想において、ドル/円を7-9月期に135円としました。景気指標が年央からダレて、市場が年内利下げを4回程度に増やすとの想定が前提条件です。しかし、この想定は予想ではありません。

 FRBも市場も視座が定まらないがゆえに、1回利下げ予想を仮置きしているだけでした。従って、景気・インフレ・相場が1回利下げ観測に沿って、高下少なく行儀よく推移することが、必ずしもメインシナリオなどとはい言えません。そこで、可能性として排除されない4回利下げケースのドル/円観を提示した次第です。

 金利と為替の相関分析ができる人なら、双方の水準感を結びつけることは簡単でしょう。分析に通じていない方も、図1に照らしてみれば、米利下げ回数がさらに増えて、長短金利が3%割れをうかがうならドル/円は130円割れもあり得るし、コロナ禍時のように1%未満に至るなら110円も…と、ざっくり水準感をイメージできるでしょう。

 日本衰退論や国際収支論など、日本の事情だけ強調する理由で、ドル/円相場を捉えることは困難であることを、改めて強調しておきます。

 ただし、米景気・インフレの先行きについて予断を持ちにくいこと、トランプ2.0の政策は表明も実行も相場にとってかく乱的であることから、現時点では、ドル/円が160円に向かうのか、140円に向かうのかについて特定のシナリオに肩入れすることはできません。

「ズバリ予想」でないと物足りなさを感じる個人投資家もいるでしょうが、予言のような「ズバリ予想」は技術的にあり得ません。相場シナリオについて、信頼に足る根拠をなお一層保持しえないというのが、筆者の一貫した2025年観です。

 なお、今週の私のトウシル動画では、足元の円高について、そして、中長期視点での円の実力について、より踏み込んだ解説をします。ぜひ併せてご覧ください。

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