今年の株価見通し、「分からない」というコメンテーターはいない
毎年末、私が密かに楽しみにしていることの一つに「1年前のビジネス雑誌を書架から取り出す」というものがあります。
年末のビジネス雑誌や経済誌には、「20XX年、日本はこうなる!」「世界はどう動く 大予測特集」のような見出しが躍ります。新しいビジネストレンドも紹介されていて面白いのですが、私の場合はすぐには目を通さずに1年後に読み返します。
中でも「株価はどうなる」特集は、1年後に見ると興味深いものがあります。あまり株価水準は当たっていない、というのがだいたいのパターンです。
2024年は急上昇の相場でしたから、ほとんどの人が年末の株価水準を当てることはできませんでした。強気派も驚く数字でしたし、逆に弱気派の予想は現実を大きく下回りました。
基本的には前年下半期のトレンドをそのまま伸ばしていった予測を中心に、強気派と弱気派の有識者がプラマイ数千円くらいの予想をします。
正直、コメンテーターとしては「分からない」とコメントしたいところですが、それでは仕事になりませんから、いろんな情報を基に「見立て」を行います。
「トランプが……」「中国が……」「●●が……」と解説を加えつつも、「トランプショックで日経平均株価が2万円になる」とは書きにくいですし、「さらなる上昇相場で日経平均株価が5万円に到達」ともなかなか書きにくいわけです。
株価見通し、本当は「分からない」が「分かる」こともある
一時期、「分からない」というコメンテーターをやりたいと雑誌記者に話したことがあります。どんな相場でも「分からない」とコメントを残すというアイデアでしたが、記者には「面白いけど不採用ですねー」とスルーされてしまいました。たしかに、読者もそんなコメントは求めていないでしょうしね。
しかし、正直なところをいえば、以下二つのことは誰にも分かりません。それは、
「いつ上がるか」
「どれくらい上がるか」
です。これらは予言するしかないので、誰も正確に当てることはできないのです(それでも株価を予想する努力が無意味というわけではありません)。
ただ、いつ、どれくらい上がるかが分からなくても、「長期的には上がる」とはいえます。経済の成長、長期的なインフレの傾向や賃金上昇率などを踏まえれば、株価は平均的にはプラスのリターンになり、物価上昇率や銀行預金金利を上回ることが期待できるからです。
2024年の日経平均株価がバブル後34年ぶりに最高値を更新したことは、数十年を経てもなお、経済の力強さが存在することを示しました。
そして、これこそが投資がもつ確実性といえるかもしれません。
「分からない」からこそリスクを抑える選択肢が生きる
「分からない」状態から投資をすると、ただリスクにさらされることになるのでしょうか。そうではありません。「分からない」ことを踏まえての対策はあります。
まず対策としてあげられるのは、分散投資です。といっても、「全世界の株式」だけでは「株式」の中だけでの分散にすぎません。
伝統的な年金運用の考えでは、国内外株式、国内外債券、不動産投資やオルタナティブ投資などを組み合わせ、リスクをコントロールします。
企業年金連合会の運用調査では、大企業の確定給付企業年金のポートフォリオを以下としています。
国内株式 10.1%
外国株式 14.9%
国内債券 18.0%
外国債券 17.1%
ヘッジファンド 5.5%
その他資産 14.5%
一般勘定 15.8%
短期資産 4.0%
まず、株式投資比率(国内株式+外国株式)は全体の25%です。「オール・カントリー1本勝負」や「S&P500種指数に全力投入!」のような投資スタンスとは様子が異なることが分かります。これに、その他の投資手法を合計で約20%組み入れてリスクを分散しています。
リスクが大きい印象が強い年金運用ですが、実際には債券運用の比率が高いのも特徴です。合計で約35%(国内債券+外国債券)が国内外の債券運用に回っています。
リーマンショックの前年あたり、企業年金運用の世界では債券投資を軽視する傾向がありましたが、あれだけの急落相場が起きても「大きく下げすぎずに済んだ」のは、分散投資の観点から債券を一定割合保有し続けていた企業年金でした。
そして、個人の預貯金に近い安全性の高い商品である生保一般勘定にも約15%が振り向けられています。
個人においては、バランス型の投資信託で「株以外」にも少し投資比率を振り向けてみたり(もちろん運用コストは低いものを探す)、「現預金や個人向け国債のポジション+投資のポジション」を意識してみたりするのもいいでしょう。
「株式投資100%」は上昇相場ではウハウハですが、下落相場でもそれを続けられるか、市場が好調なうちに検討してみることをおすすめします。
「分からない」からこそリバランスが生きる
もう一つ、「分からない」ことを前提にするが故に使える投資戦術があります。それはリバランスです。
リバランスとは、そもそもの投資割合や資産配分比率があって、そこからのズレを調整することです。公的年金運用では、おおむねインデックス運用を中心にしていますが、累積153.6兆円もの利益を生み出しています。その源泉となっているのは、銘柄選択や売買タイミングではなく、基本ポートフォリオの設定とリバランスの実直な積み重ねです。
市場が下がっているとき、計画した投資割合より投資比率が下がっているならリスク資産の組み入れを行い(=株価下落時に「買う」)、反対に市場が上がっているなら、計画した投資割合より投資比率が上がっている超過分について利益確定をします(全部ではなく部分的に「売る」のがポイント)。
心理的には「下がっているときに買いたくない」「上がっているとき売りたくない」となってしまいますが、計画とのズレを修正するために行うことで利益を積み重ねているわけです。
個人においては、あまり緻密にリバランスをやらなくても大丈夫です。計画を1%刻みで修正しようとすると「3万円分、外国株から国内債券へシフト」のような小さすぎる売買となってしまい、手間とコストのバランスが合わなくなるからです。NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の非課税枠から資金を下ろしてしまうのも避けたいところです。
しかし、「投資割合:預金の割合」という割合だけは意識しておきましょう。投資比率が高すぎると感じたら、「数カ月くらい積立投資を控えて、積立定期預金を増額する」のように調整してみることをおすすめします。
その現金枠は、株価が下がっているときに投資目標割合に合わせて買い付ける資金になるわけです。
さて、トランプ大統領の就任後、早速ニュースが飛び交い、2025年の国内外の株式がどうなるのか気になるところです。仕込みどころを思案している人もいるでしょう。
しかし、「分からない」と素直に認めてできることを対策しておくのも投資戦術です。一般個人ほどそちらのほうが効果的ではないでしょうか。