ドル円一時154円後半まで円安進行後、すぐ152円台後半に戻す

 先週前半のドル/円は、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長の議会証言と、米国1月CPI(消費者物価指数)の結果を受けてFRBの利下げ時期がかなり後ろ倒しになるとの見方が広がり、1ドル=151円台から1ドル=154円台後半まで円安が進みました。

 しかし、週後半には米1月PPI(卸売物価指数)と1月小売売上高の結果を受けて円高となり、元の水準に戻りました。これらの動きを振り返ってみます。

 11日の上院銀行委員会での議会証言で、パウエル議長は経済の堅調さを強調して「これ以上の利下げを急ぐ理由は見当たらない」とこれまでと同じ姿勢を示しました。この発言を受けて、1ドル=152円台後半へと円安が進みました。

 12日の米下院金融サービス委員会での議会証言もほぼ同じ内容を改めて表明しました。12日にはさらに円安が進んだのですが、これは議会証言が要因ではなく、米1月のCPI(消費者物価指数)の結果が理由です。

 1月CPIはコアCPI(振れ幅の大きいエネルギー・食品を除いた指数)を含め、前月比も前年比も予想を上回りました。そのため、米早期利下げ観測が後退し、米10年債利回りは一時4.6%台半ばへと3週間ぶりの高水準を付け、ドル/円は1ドル=154.80円近辺へと円安が進みました。

 米国CPIは、2022年6月の9.1%(約40年ぶり)をピークに2023年6月に3.0%まで低下し、その後3%台で推移していました。そして2024年7月に、2021年3月以来初めて3%割れとなり、9月には2.4%まで鈍化しました。しかし、10月には7カ月ぶりに上昇し、その後4カ月連続で上昇して1月に再び3.0%に戻しています。

 物価の瞬間風速を映す前月比は、2024年6月にマイナス0.1%と2020年5月以来約4年ぶりにマイナス転となりました。しかし、翌7月には0.2%のプラス転となり、横ばい後11月から3カ月連続の上昇となり、1月には0.5%と伸びが加速しています。

 CPIの鈍化傾向が止まり、再び上昇してきている動きを受けて、パウエル議長は「利下げを急ぐ必要性はない」との認識を示しました。

 パウエル議長の発言を裏付けるようなCPIが発表されたことから、「FRBの利下げ回数は1回」との見方が広がりました。しかも利下げ時期は年内後半へと後ろ倒しになるか、場合によっては年内はないかもしれないとの見方も広がり、ドル買いとなりました。

 ところが、CPIの翌日13日に発表された米1月PPIと、14日の米1月小売売上高によって、その見方は急速に後退し、今度はドル売りとなりました。

 13日の米1月PPIは、前年比+3.5%と予想を上回りました。しかし、FRBが注目するコアPCE価格指数を算出する構成項目では減速傾向がみられたため、米金利は低下し、1ドル=152円台後半へと円高が進みました。

 そして14日の米1月小売売上高(前月比)は、カリフォルニアの山火事や全米各地での寒波の影響でマイナス0.2%の減少という予想でしたが、実際にはそれを大きく下回るマイナス0.9%だったことから、米景気減速懸念が強まり、米金利の低下に伴って1ドル=152円近辺へと円高が進みました。

 17日には、日本の10-12月期GDP(国内総生産)実質年率が+2.8%と予想を上回ったため、1ドル=151円台前半まで円高となりました。結局、CPI前の水準に戻ったことになります。

 この間、トランプ大統領の関税政策が次々と発表されました。9日、トランプ大統領は全ての鉄鋼・アルミニウム製品の輸入に25%の追加関税を適用することを表明し、10日に大統領令に署名し、3月12日に適用するとしました。

 また、13日には、高関税の貿易相手国に同率の関税を課す「相互関税」の導入を検討することを各省庁に指示しました。そして14日には、米国に輸入される自動車に、4月2日ごろから関税を課す方針を表明しました。

 まだ詳細が不明であったり、適用や発動が先の話であったりするため、為替市場では一時的に反応することはあっても長続きはしていません。ただ、もし、実際に適用されると世界経済にとってはマイナス材料になるとの懸念から株安、金利低下、ドル安を警戒する動きも出始めています。

 前回のコラムでは、現在のドル/円相場は「FRBの利下げ休止」vs「日本銀行追加利上げ観測」の構図で動いており、そこに「トランプ関税」が波乱要因として加わっているとお話ししました。

ドル/円今週の見通し

 先週前半はパウエル議長の議会証言とCPIによって「利下げ休止」期間が長引くとの見方からドル高・円安となりましたが、週後半はPPIと小売売上高によってその見方が後退し、ドル安・円高となって元の水準に戻りました。

 つまり先週は米国要因だけで動いたことになりますが、1ドル=151~155円のレンジ内で動いているだけで、方向をまだ模索中という動きです。ただ、1月と比べるとレンジは円高方向に下がってきている点は留意しておく必要があります。

 19日には、前回1月のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨が公表されます。トランプ政策の影響についてどのように議論されたのか、そしてその結果として利下げ時期についてどのような議論がされたのか注目です。

 トランプ政策によるインフレ再燃を警戒する議論だけでなく、政策による景気後退懸念も議論されたのかどうか注目したいと思います。タカ派色が強いとドル高に反応する可能性があるため、注意する必要があります。

 先週は、日銀要因は材料視されていませんでした。17日の日本10-12月期GDPは予想を上回り、18日には日本の新発10年債利回りは1.43%に上昇しました。15年ぶりの水準の割には、あまり為替には反応していませんが、早晩、為替市場にも効いてくるのではないでしょうか。

 19日、日銀の高田創審議委員による「1月に実施した追加利上げ以降も、ギアシフトを段階的に行っていくという視点も必要」との発言によって円高に反応しましたが、円買い一巡後は再び1ドル=152円台に戻しています。日銀からのタカ派的な発信は今後も続きそうですが、6月か7月の利上げ観測が前倒しにならないと、レンジ内の模索は続くかもしれません。

 18日、ウクライナ停戦の米露初協議が行われました。しかし、米露首脳会談の日程は決まらず、2月中の開催は困難との見方からユーロは売られました。

 停戦協議の要因も、ユーロの動きを介してドル/円にも影響を与えることから、協議の動向に注目です。停戦を期待したユーロ買いはドル安となり、円高要因となりますが、同時にユーロ/円が買われると円売り要因となるため注意が必要です。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は頭越しの交渉に反発し、19日予定のサウジアラビア訪問を延期しました。欧州も急きょ首脳会談を開きましたが、意見は分かれているようです。停戦協議が難航すると、ユーロが売られ、逆の動きになるため協議の動向には注目する必要があります。