先週の株式市場は、米国のトランプ大統領が次々と繰り出す高関税政策に対する慣れや様子見姿勢もあって上昇に転じました。
機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は前週末比1.47%高と3週ぶりに上昇。
トランプ関税で先行き不透明な中、「寄らば大樹の陰」的な巨大IT企業への資金流入が起こりました。
フェイスブックの親会社で自社AI(人工知能)の長期的な普及に自信を示すメタ・プラットフォームズ(META)が前週末比3.1%高と小幅上昇ながら、1月19日から実に20連騰しているのが目を引きます。2月15日(土)にはAI技術を駆使したヒト型ロボットの開発も発表しました。
一方、貿易相手国が高関税をかけている品目に同率の高関税を課すトランプ「相互関税」の悪影響を受けそうな日本でも、日経平均株価(225種)が前週末比362円(0.9%)高の3万9,149円まで上昇。
先週、佳境を迎えた2024年10-12月期決算で好業績を発表した企業が全体相場をけん引しました。
米国の金利の低下で週初めの10日(月)に一時、1ドル=151円20銭台まで進んだ円高が、米国の物価指標の伸びが加速したことで14日(金)には1ドル=152円30銭台まで小幅上昇。円安方向で踏み止まったことも追い風でした。
米国では、12日(水)発表の1月CPI(消費者物価指数)が前年同期比3.0%、前月比0.5%の上昇といずれも予想を上回る約1年半ぶりの高い伸び率を示しました。
米国株は一時的に下落し、為替市場ではドル高円安に振れました。
翌13日(木)発表の1月PPI(卸売物価指数)も前年同月比3.5%上昇と予想を大きく上回りました。
しかし、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が最重要視する個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)に反映されるPPIの品目の価格が抑制的だった、という理由で米国株は上昇し、金利は低下しました。
これまでトランプ関税に振り回されてきただけに、投資家はPCEデフレーターに影響しない物価高は無視、という多少「こじつけ気味」の理由をつけても株価上昇の材料を見つけたかったのかしれません。
今週は18日(火)に米国のニューヨーク連邦準備銀行の2月製造業景気指数、19日(水)には当面、利下げを急がない方針を決めた1月29日終了のFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事録が発表されます。
また20日(木)には、世界最大の小売企業である米国のウォルマート(WMT)が決算発表。先週14日(金)の米国の1月小売売上高がロサンゼルスの山火事や厳しい寒波の影響もあって前月比0.9%減と2年ぶりに大幅低下となり、14日の米国株反落の原因になっただけに注目です。
週明け17日(月)の日経平均終値は前週末比24円高の3万9,174円 でした。
先週:トランプ関税に株価は反応薄。日本は好決算企業の急騰がけん引!
先週10日(月)、トランプ大統領は鉄鋼・アルミニウムの輸入に25%の関税を課す大統領令に署名。
13日(火)にはEU(欧州連合)、日本も含めて、米国製品に関税を課す全ての国に「相互関税」を課すことも発表しました。
しかし、鉄鋼などの新税率発動は3月12日(水)、相互関税導入には数週間かかる見通しを示したため、株式市場の反応は限定的でした。
ただ、14日(金)には輸入自動車に対する新たな関税を4月2日ごろに決めると表明。
最も打撃を受けそうなのはEUですが、日本が誇る自動車産業にも悪影響があることは必至でしょう。
トヨタ自動車(7203)や経営統合交渉が破談に終わったホンダ(7267)と日産自動車(7201)の今後の株価は、上値を抑えられそうです。
決算発表がピークを迎えた日本市場は好決算企業の株が買われ、決算の悪かった株が売られる典型的な業績相場になりました。
13日(木)にゲーム事業が好調で2025年3月期の通期業績を上方修正した、ソニーグループ(6758)が前週末比6.4%高。
13日に2024年12月期の業績上振れと今期2025年12月期の大幅増益予想を発表した日用品メーカーのライオン(4912)が17.3%高。
2025年3月期の純利益を減益から一転、増益予想に修正した印刷会社のTOPPANホールディングス(7911)も16.0%高。
同社が属するその他製品セクターは、週間の業種別上昇率トップになりました。
また、有名タレントの女性問題に社員が関わっていた疑惑からテレビCM収入が激減し、経営問題に発展しているフジ・メディア・ホールディングス(4676)が16.1%高。
同社の2025年の上昇率は前年末比68.1%に達しています。
人気のアクティブ型投資信託「ひふみ投信」を運営するレオス・キャピタルワークスが同社の株式を5%超保有していることが判明。
テレビ部門と高収益な不動産部門の分離などを要求していくことが明らかになったことが株価続伸につながりました。
悪材料が出た企業に対して投資家が経営改革を要求するために株主になるトレンドは、今後、実際にフジ・メディアHDの経営が刷新され同社が新たな成長軌道に乗るようなら、日本経済にとっても、個人投資家としても大歓迎といえるでしょう。
一方、2024年10-12月期の営業利益の伸び率が上半期の50%台から15%まで鈍化した玩具メーカーのタカラトミー(7867)は19.4%安。
2024年12月期の業績が予想より下振れしたクラレ(3405)が11.8%安。
ともに株価がこれまで急上昇してきただけに決算が少しでも悪いと株価がたたき売られます。急騰株の高値つかみが怖い理由といえるでしょう。
米国では、2月19日(水)に新製品を発表予定のアップル(AAPL)が7.46%高。
中国の低価格・高性能なAI「DeepSeek(ディープシーク)」ショックで急落した米国高速半導体メーカーのエヌビディア(NVDA)も6.94%高と2週連続で反転上昇しました。
今週:ロシア・ウクライナ停戦なら株価急騰!金利上昇でも日本株上昇が続く理由
今週の株式市場も引き続きトランプ大統領の言動に左右される可能性が高いでしょう。ただし、先週はトランプ関税の発動がずいぶん先になることもあって、トランプ大統領の言動に株価が大きく反応する度合いは低下しています。
株式市場に「トランプ慣れ」「トランプ・スルー(無視)」が定着して、好調な米国や日本の経済・企業動向に沿って株価が順調に上昇するトレンドが続くかどうかが今週の注目ポイントといえるでしょう。
さらに、トランプ大統領は先週12日(水)、ロシアのプーチン大統領とロシア・ウクライナ戦争の停戦に向けて電話会談し「遠くない将来、停戦を実現する」と表明。
14日(金)には米国とロシア、ウクライナの当局者がドイツで停戦に向けた協議を行うとトランプ大統領は発言しています。
もしロシア・ウクライナが電撃停戦すれば、高騰している資源価格が下落するので資源輸入国の日本にとっても、物価高再燃が警戒される米国にとって大きな朗報になるでしょう。
米国の経済イベントでは19日(水)夜に発表される1月29日終了のFOMCの議事録に注目が集まりそうです。
同FOMCでは4会合ぶりに政策金利を据え置き、利下げを急がない方針が打ち出されています。トランプ新大統領の関税政策がインフレ再燃につながるかどうか見極めたい意向が鮮明な政策決定でした。
19日発表の議事録の中でトランプ関税に対する警戒感がどれぐらい強いのか、さらには利下げ再開の時期が2025年前半なのか後半なのかなどについて、具体的な指摘があると株価が反応する可能性も高いでしょう。
ただ、FRBのパウエル議長は先週12日(水)、13日(木)に行われた半期に1度の米国上院・下院での議会証言で「利下げを急ぐ必要はない」と改めて表明。
株式市場に波乱を起こさず議会証言を乗り切っているだけに19日(木)のFOMC議事録発表も無風に終わるかもしれません。
日本国内では21日(金)に1月CPI(消費者物価指数)が発表。生鮮食品を除くコアCPIは、前年同月比3.1%まで伸びが加速する予想です。
日本国内では、キャベツなどの野菜や米の価格上昇が続いており、政府は14日(金)に備蓄米21万トンの放出を発表しました。
日本銀行が物価高を抑え込むために追加利上げを進める観測を受け、日本の長期金利の指標である10年国債の利回りは13日(木)に一時1.375%と、2010年4月以来15年ぶりの高水準まで上昇しています。
通常、金利が上昇すると株価は下落するものですが、13日は日経平均株価、TOPIX(東証株価指数)は金利上昇が収益増につながる銀行株や保険株を中心に1%以上値上がりしています。
考えてみると、日本は欧米に比べて金融資産に占める預貯金比率の高い国です。
金利が上昇すれば銀行預金の利息も増えます。
住宅ローンを抱える世帯はともかく、豊富な現預金を持つ高齢者世帯など多くの人にとって金利上昇はどちらかというと追い風なのかもしれません。
緩やかな金利上昇が続き、利息収入で潤った家計の消費が活発化し、内需株の業績が向上する展開に期待したいところです。