トランプ大統領の経済政策全体は、プラチナの需要と価格に短期的にはマイナスの影響を与えると見られる。保護主義的な行動と特に関税はインフレを導き、FRBの金利引き下げサイクルを遅らせてドル高につながる。我々のプラチナ価格モデル(プラチナ投資のエッセンス10月)でプラチナ価格は、米国債10年物利回りとドル・ランド為替レートに対してそれぞれ負の相関関係があること、プラチナ価格と正の相関関係がある自動車や宝飾品のプラチナ需要は、インフレになれば消費者が支出を抑え、需要が減ることになるからだ。
本稿執筆時点でトランプ大統領はメキシコとカナダからの輸入品に対して25%の関税を、中国からの輸入品には10%の追加関税を決定した。一律的な関税賦課は免れたため、プラチナ市場への影響は少なくとも当初は限定的になると考えられるが、米国はネットで年間約17.1トンのPGM(世界の需要の7%)、約12.4トンのパラジウム(世界の需要の4%)を輸入する輸入国。米国内の生産量が増える見込みが限られる中、メタルに関税が課されれば米国内でメタルが不足するとの懸念からリースレートとEFPは上昇中だ(プラチナ展望1月)。米国内の供給は約8割がリサイクルからだが、スティルウォーター鉱山は昨年約4割も生産能力を削減しており、メタル価格が今より大幅に上がらなければそれを元に戻すことは難しい。また南アフリカのPGMは関税対象になっておらず、カナダの Lac des Iles 鉱山は輸出先として米国市場を失う可能性がある。
図1.米国のインフレと金利は下がらない可能性も

図2.米国は年間15.6トン以上のプラチナ輸入国

関税賦課で米国内のメタル価格は上昇するかもしれないが、より広範な視点から見ると関税はプラチナ価格を押し下げるリスクを孕む。年間1兆ドル近い米国の貿易赤字からみても、関税が実現すればインフレは避けられない。同時に移民政策の厳格化で国内の労働コストが上がり、これもインフレを誘う要因になる。インフレになれば金利を上げる必要が生じ、金利高とドル高、どちらもプラチナ価格にはマイナス要因だ。我々の価格モデルだと米金利が1%上がればプラチナ価格は24ドル/オンス下がり、南アランドが1ランド上がると60ドル/オンス下がる(図3)。また、インフレになれば消費者は支出を抑え、それに経済成長も鈍化する。北米は自動車のプラチナ需要の約15%、プラチナ宝飾品生産の約25%を占める(図6)が、消費者の支出が減れば新車や宝飾品の需要は落ちる。2024年の北米の自動車と宝飾品のプラチナ需要は28.0トン以上もあった。我々の価格モデルだとこれらの需要が3.1トン減れば、プラチナ価格は23ドル〜28ドル/オンス変動することになる。
一律的な関税が賦課されていない今は、プラチナ市場への波及は限定的
しかし、関税は米国内のメタル価格を一時的に押し上げるにしても、より広い視点からすると、プラチナ需要と価格にはマイナスの影響
投資資産としてのプラチナを支える背景
-WPICのリサーチによると、プラチナ市場は2023年から供給不足が続き、2028年までに地上在庫がなくなる可能性
-プラチナ供給は南アの鉱山供給減とリサイクル率の低下で問題多い
-プラチナ需要は多種多様な分野にまたがる
-プラチナは世界のエネルギー転換に必要な水素経済に重要な役割を果たす重要鉱物
-プラチナ価格は長い期間過小評価が続きゴールドよりも大幅な割安
図3:WPICは重回帰分析法にて、プラチナ価格の決定に重要な役割を果たす6つの変数を使う価格モデルを作成した(詳細は『プラチナ投資のエッセンス』を参照)

図4:米国の貿易赤字は月600億ドルから1,000億ドル

図5:高い金利はドルの上昇を招き、ドル建てコモディティー価格には圧力

図6:北米は自動車と宝飾品の年間のプラチナ需要のそれぞれ15%と25%を占める

図7:米国は年間約12.4トンのパラジウムを輸入

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