今回のサマリー

●米景気・インフレは底堅くも中立的で、FRBは情勢を見極める構え
●トランプ2.0は一気にインフレ的政策に走るわけではないが、市場は不安と安堵(あんど)の繰り返し
●米国株は、AI盟主NVDAの迷走、トランプ2.0のかく乱、DeepSeek後の地殻変動で、短期波動に
●2月相場は26日のNVDA決算が鬼門であり、勝機のきっかけとしても注目

1月の期待と不安

 2025年明け早々の米市場は、強めの景気とインフレの持続性、トランプ政権始動時の政策インパクト(インフレ的か)、そこに企業決算がどう作用するか、期待と不安が相まっていました。ああでもないこうでもないと市場の声が変転する中、1カ月強を経て、判明してきたことから、2025年の視界も開けてきたところがあります。

 まず、市場の概況をおさらいします(図1)。1月は早々から、債券市場で金利上昇に賭けるショート筋が活発化しました。株式相場はとりあえず、年明けの買い意向、経済に強そうなトランプ政権への期待で上昇しかかりましたが、債券金利の上昇を嫌気して反落に。強めの雇用統計が金利高と株安を一段促しました。

 その後、CPI(消費者物価指数)が控えめで、債券にショートカバーが入り、金利は軟化。株に買い機運を促しかかりました。20日新政権発足時の大統領令乱発が、懸念されたほど強烈ではなく、債券買戻しが進み、金利は続落。株はこれを好感しつつも、新登場のかく乱要因DeepSeekに振らされました。

図1:米主要金利とナスダックの相場局面の変遷

米主要金利とナスダックの相場局面の変遷
出所:Bloomberg、田中泰輔リサーチ

 DeepSeekショックで、エヌビディア株(NVDA)などAI(人工知能)テック相場が急落した一方、安価で高性能なAIモデルの登場がプラスに作用する銘柄・業種の物色も始動。決算、指標、金利、DeepSeekなどさまざまな事情に反応して、極短期の波動を繰り返す株式相場は、銘柄選びに自信を持てない個人が買い気をくすぶらせています(図2)。

 このため、新たな狙い目に対して、小さな支援ニュースが出るなどすると、個人の買いが殺到して相場は急騰、その相場が鈍ると売り逃げてハシゴ外し、という神経過敏な地合いが続いています。事前に公言され、織り込み済みと思われた対カナダ、対メキシコの25%関税がいざ実施目前になると、また株価はショック性の急落に見舞われました。

図2:NVDAとSOXに見る短期波動相場

NVDAとSOXに見る短期波動相場
出所:Bloomberg

ここまでに判明したこと

 年明けから1カ月強で、見えてきたことを整理します。

米景気・インフレ

 ともにしっかりめながら、目立った上振れもなく、中立的に推移しています。2月に公表された1月分の雇用統計、ミシガン大学消費者調査のインフレ期待、CPIが強振れたことは「一応」留意しておく必要があります。「一応」とするのは、1月の指標は季節的に評価しにくい振れが起こりやすいこと、トランプ政権発足で関税が引き上げられる前の駆け込み需要やインフレ警戒が影響している可能性があるからです。

 つまり、景気やインフレの先行きを判断するには、もう少しデータを待つ必要、あるいは猶予があると考えます。

トランプ2.0

 何をしでかすかと不安視されてきたトランプ政権ですが、景気・インフレ・市場に無用な悪影響が広がらないよう、一定の配慮を見せていることもうかがえます。ベッセント財務長官が、インフレと長期金利の抑制に重きを置いて政策運営する旨の発言もしています。これによって1月前半の金利高不安は緩和しました。

 高関税や移民排斥はインフレ的と警戒されてきました。しかし、関税は国家間ディールの脅しのツールであり、一気に高めるのではなく、交渉相手の反応次第でさじ加減する姿勢を見せています。移民問題は、犯罪歴のある不法滞在者から強制退去させるという、至極まっとうな、時間をかけて進めるかのステップに思われます。

 もちろん、そうしたさじ加減の配慮によって、相場が大過なく進めるという保証はありません。ディールの脅しは、時々実際に具体化させないと、相手に高をくくられてしまい、脅しの効果も薄れてしまうでしょう。したがって、市場はそうしたディールのこじれ方による相場のはしご外しリスクには、引き続き留意が必要です。

FRBと金利

 景気・インフレ観に大きな変化は見られず、トランプ2.0のスタートも過剰に過激とも言えず、FRB(米連邦準備制度理事会)には、情勢を見極める猶予が生じています。市場は、利下げ観測をいったん棚上げにして、景気・インフレ指標、トランプ政策を見て、予想を微調整していくことになるでしょう。

 債券金利について2025年スタートからしばらくは、トランプ2.0下での上昇リスクばかり警戒されていました。しかし、足元では上がるばかりでないことが確認されています。年初から、トランプ政策はインフレ的という警戒と、新政権が何をしでかすか分からない不安に乗じて、投機筋の債券ショートが活発化しました。しかし、景気・インフレの基調観は大きくは動かず、トランプ政策が一気にインフレ的に走るわけでもなく、債券は買戻しを余儀なくされました。

 もっとも、債券金利がさらに下がっていくには、景気・インフレ観の下振れ、トランプ政権のインフレ・長期金利抑制スタンスの明確化が必要とみています。このため、長期金利は、これらの状況をにらんで、4.5±0.3%をコア・レンジとして、当面の相場観を組み立てています。

米国株

 米長期金利を株式相場の指針とすると、4.5%を上回ると黄信号が点灯し、4.8%に絡むと点滅が速まり、5%で赤信号というのがざっくりイメージです。4.5±0.3%の範囲内であれば、株式相場は4.5%より下方で安堵し、4.5%付近では金利を気にせず、4.5%より上方では折々警戒的に下がるといった案配でしょう。

 最近1カ月は、長期金利が4.5±0.3%圏内にありました。そのおかげで、金利以外の要因の相場インパクトを観察しやすかったとも言えます。株式相場は神経質にごく短期の波動で高下を繰り返しました。

 理由の一つは、長らく相場のけん引役だったAIの盟主NVDAの迷走です。次いで、トランプ関税への警戒と安堵の繰り返しです。さらに、DeepSeek登場で、安価で高性能のAIモデルがもたらすAI株の地殻変動です。

 要は、NVDA以外の有望AI銘柄(一部の半導体、ソフトウエア、電力など)、トランプ政策に適う銘柄あるいは耐性ある銘柄(金融など)の物色が進んでいます。詳細は、トウシル動画で解説します。

NVDA決算という鬼門

 2月は、1月年明けの相場動意および決算と、3月のリバランスのはざまで、相場もビジネスも「枯れ月」の空気感があります。季節的にも、値動きの方向性の乏しさが観察されます。このため、例年は、1月に大きな相場変動があると、その延長線上で相場リズムを評価してきました。

 しかし、2025年の1月の株式相場は、上がっては下がるごく短い波動を繰り返し、強いリズムを見いだしにくいままでした。トランプ2.0もかく乱的なため、当然とも言えます。2月相場リズムへの示唆も、1月と同じように、短期の高下を繰り返す波紋の延長というほどにとどまります。

 決算も、雇用統計やCPIなど重要指標も確認した後では、おそらく2月26日のNVDA決算発表を鬼門として、相場リズムを測る構えでいます。NVDAは、8月と11月の決算がまずまずだったにもかかわらず、相場の上昇が続かずに反落し、迷走してきました。そして、DeepSeekショックでの相場急落で、10月以降に作られたNVDAポジションの大半が含み損になっています(図3)。

 小刻みの相場波紋、NVDA相場の迷走と上値のしこりポジション、そして、トランプ2.0のかく乱、再び上がり気味の米金利を踏まえると、やはりNVDAは決算前後に押し目が生じやすいと想定します。そして、AI周縁銘柄では、ここでの底堅さ・堅調さが来る状況への耐性の証(あかし)にもなろうと考えています。NVDA決算という鬼門をくぐりながら、活路を見いだすべく身構えています。

図3:NVDAは上値に巨大なしこりポジション

NVDAは上値に巨大なしこりポジション
出所:Bloomberg

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