※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「トランプ関税と中国:「米中貿易戦争2.0」と習近平政権の戦略」
中国が「トランプ関税」に対する報復措置を発動。「貿易戦争2.0」へ
先週のレポート「トランプ関税に対し中国は『対米報復』発表。米中対立で注目すべき三つのポイント」では、2025年1月20日に発足したトランプ第2次政権が、2月1日に中国の輸入品に対する10%の追加関税を発表したのを受けて、中国が報復措置を発表、2月10日開始とされる中、メキシコやカナダのように、首脳間の協議が持たれるかどうか、その結果、貿易戦争の再燃がいったん停止するかどうか、といったポイントを挙げました。
世界中がトランプ大統領、および第2次政権の一挙手一投足に注目していますが、中でも「関税」は、同大統領が掲げる米国第一主義やMAGA(Make America Great Again)を象徴する分野であり、要素だと思います。そして、「トランプ関税」が引き金となり起こり得る、最もインパクトの強い事象の一つが、世界第一、第二の経済大国であり、戦略的競争関係にある米国と中国との間で貿易戦争が再燃し、かつそれが引き金となって、米中が従来以上の対立、衝突する局面に陥り、世界経済や国際関係が極度に不安定化するシナリオでしょう。
その意味で、中国がトランプ関税をどう認識し、対応しているのかを綿密にフォローし、アップデートし、検証を加えていくことが重要だと私は考えています。
まず結論から述べると、中国は2月10日、事前に発表していた通りに、米国からの石炭と液化天然ガス(LNG)に15%、石油や農業用機器、大型エンジン搭載車などへの10%の関税を発動しました。「(米国の戦略的競争相手である)中国はカナダやメキシコではない」という観点から、中国は米国に対して安易に妥協しない、歩み寄らないだろうと私が予想した展開になっています。
米国から中国への追加課税が発動された2月4日から10日までの間に、メキシコとカナダの首脳がそうしたように、習近平(シー・ジンピン)国家主席がトランプ大統領と電話で協議をし、その結果として関税の応酬が一時的にでも停止される可能性も指摘しましたが、現実とはなりませんでした。
米中通商関係や両国それぞれの経済への影響がどうなるかに関しては、これから情勢を見極めていかなければなりませんが、何はともあれ、「米中貿易戦争2.0」が発生したというのは事実であり、米中のはざまで生存、成長していかなければならない立場にある日本としても、この事実を重く受け止め、今後の対策を考えていく必要があるでしょう。
鉄鋼&アルミ25%関税に対する中国の反応と三つのポイント
その後も、トランプ関税はとどまることを知らないという様相を呈しています。中国が米国への課税を開始した2月10日、トランプ大統領は、鉄鋼・アルミニウムの輸入に25%の関税を賦課する大統領令に署名しました。新たな税率は3月12日午前0時1分(米東部時間)に発効するとのことです。
鉄鋼とアルミニウムに関しては、トランプ第1次政権時の2018年、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税がかけられていました。一方、カナダ、メキシコ、EU(欧州連合)、ブラジル、オーストラリアなどは一時的に除外されていて、日本に関しても一定量までは除外されていたという経緯があります。
第2次政権となった今回、トランプ大統領は(米国が貿易黒字を計上する豪州に対しては免除を検討するとしているものの)日本など同盟国を含めた全ての国を例外扱いしない、従来の除外規定を廃止するという姿勢を前面に打ち出しています。
今回の措置を打ち出す中で、トランプ陣営は、中国が、既存の関税を回避しようとする動きを取り締まるという目的も公言しています。ベトナムやメキシコを経由する迂回輸出防止、そして世界の鉄鋼生産能力の半分近くを占める中国の過剰生産に対抗するという意味合いも持たせているでしょう。「トランプ関税」における主要ターゲットの一つが「中国」であるという現実を赤裸々に物語っていると言えます。
中国はトランプ関税をめぐる最新の動きに対してどう反応しているのでしょうか。
2月10日(北京時間)、中国外交部の定例記者会見において、本件について米ブルームバーグ紙の記者から質問された郭嘉昆報道官は、「保護主義に活路はなく、貿易戦争と関税戦争に勝者はいないということだけ強調しておきたい」と短く回答した上で、続けて、NHKの記者からの関連質問に対して、「いま必要なのは、一方的な追加課税ではなく、平等で相互に尊重する形での対話と協商を実行することである。我々は米国側が誤ったやり方を是正し、通商問題の政治化、道具化を停止することを促す次第である」と一歩踏み込んで自らの立場を説明しています。
これらの反応を踏まえた上で、中国側の意図や今後の動向を読み解く上で、私が重要だと考えるポイントが三つあります。
一点目が、中国側として、トランプ陣営が仕掛けてくる「貿易戦争」に怯むつもりはなく、断固として応戦する姿勢を貫き、準備も進めているということ。
二点目が、習近平政権として米国との関係にいかなる幻想も抱いておらず、追加課税や過剰生産への対抗を含め、中国との競争に勝ち、中国の台頭を封じ込めるための措置として捉えていること。
三点目が、とはいえ米国との関係は、中国が生存、成長する上で不可欠であり、使えるチャネルや手法は全て駆使した上で、対米関係を安定的に管理する用意があるということ。
貿易戦争の再燃と米中首脳会談の行方
上記三つのポイントを踏まえ、今後、米中間を含めた貿易戦争、および注目される首脳会談の行方を考えてみたいと思います。
まず前提として、貿易戦争の再燃という現象は「トランプ第2次政権の発足と始動」という背景の下で発生している、という基本的事実をおさえておく必要があると思います。鍵を握るのはトランプ大統領の考えと動きということです。
鉄鋼とアルミに関しても、発動開始までに例外主義や免除措置がどうなるのか、情勢は流動的です。日本政府も米国側に免除措置を求めています。トランプ氏は関税の設定や発動をディールの一環と捉えている節が大いにありますから、諸外国の出方次第で、発動を遅らせたり、関連諸国への差別化を図ったりしてくるでしょう。
中国の官製メディアは現状、鉄鋼とアルミ関税に関しては、米国の同盟国を含めた各国が不満を持ち、報復措置を検討しているというトーンで報道をしています。
要するに、米国の同盟国を含め「みんながトランプ関税の被害者だ」というナラティブを作り、広める。換言すれば、西側諸国を含めた国際社会を味方につけることを通じて、トランプ第2次政権に向き合い、対応しようとしているということです。中国側のこういう姿勢は、日本の政府や企業も念頭に置いておくべきでしょう。
米中関係の行方を占う上で、鍵を握るのはトランプ大統領と習近平国家主席の対話と関係だと私は考えています。この二人がどのような個人的関係を築き、先日米国を訪問した石破茂総理とトランプ大統領が見せたような「ケミストリー(化学反応)」を見いだすことができるかに要注目です。
私の理解では、米国と中国は、巨大な「荷物」や責任を抱える大国ですが、フットワークの軽さや柔軟性も持ち合わせています。両首脳の会談や関係次第で、貿易戦争の中身や行方にも変化が生じる可能性は十分にあると考えています。我々第三国としても、そういう視点も交えながら、「世界の首都」ワシントン発の貿易戦争や米中覇権争いを注視していく必要があるでしょう。