トランプ大統領の関税政策をめぐってプラチナ市場には緊張感が漂っている。カナダとメキシコからの輸入車に25%の関税がかかるようになった場合、プラチナの需要は年間需要の1%に当たる3.1トン減る可能性がある。今回は2回に分けて、排ガス規制と環境対策に関するトランプ大統領の政策とトランプ大統領の政策が経済全般に与える影響という観点から、PGM需要が受ける影響を考えていきたいと思う。
表明されているトランプ大統領の広い範囲にわたる関税政策は、貿易以外の問題解決のための「ムチ」として使われる可能性が高いが、果たして本当に関税が課されるのか、課されるならばどのように、いつからかなど不明点は多い。10%か100%か?2月1日から始まって徐々に税率が上がるのか?主要貿易国であるメキシコとカナダからの輸入品には25%と言われているが、PGMを含む重要鉱物がその対象に入るのか、それとも米国が優位な立場を取り戻したい製造業だけが対象なのか?
貴金属に関税が課された場合の市場の反応を測る目安として理論的リースレート(図1)を見ると、1月はプラチナのリースレートが一時期11%を超えるなど急上昇し、それに伴ってEFPレートも上がっている。これによって2.8トン以上のプラチナがNYMEX(図4)に動き、米国のプラチナ需要に備える形になっている。直近のリースレートは下がってきているところをみると、関税に対する懸念が消えたか(関税導入は先送り)、あるいはNYMEX公認保管にある量で十分とみなされたかどちらかだろう。一方、パラジウムはほとんど動いていないことから、米国のパラジウム供給は十分とみなされているようだ。
図1.プラチナのインプライドリースレートは関税への懸念から急上昇したが、最近は落ち着いている

図2.北米3国で関係が深い自動車産業全体に対して関税がかかればPGM需要には大きな打撃

PGM需要に対する関税の影響が、短期的にせよ最も深刻になるのは自動車セクターだ。トランプ大統領はカナダとメキシコを標的にしているが、両国の自動車産業は米国と密接な関連がある。米国が輸入する完成車両の20%、部品の約50%はメキシコとカナダからだ(図2)。それらに対する関税は自動車生産とPGM需要にとっては打撃以外の何物でもなく、部品供給を除く販売台数のみに基づいて推定すると、最大限で北米の自動車のプラチナ需要は世界の年間需要の1%に当たる3.0トン、パラジウムは4%に当たる11.3トンがそれぞれ減る予測になる。需要に対する影響としてはパラジウムの方が大きいが、プラチナとパラジウムのリースレートの違いは米国内のPGM供給はパラジウムの方が多い(図7)ことがその背景にある。
トランプ大統領の関税予告で米国のプラチナ供給に懸念、NYMEX倉庫へ現物が流入。自動車のメタル需要には打撃が大きく、特にパラジウム需要は大きく減る予測
投資資産としてのプラチナを支える背景
-WPICのリサーチによると、プラチナ市場は2023年から供給不足が続き、2028年までに地上在庫がなくなる可能性
-プラチナ供給は南アの鉱山供給減とリサイクル率の低下で問題多い
-プラチナ需要は多種多様な分野にまたがる
-プラチナは世界のエネルギー転換に必要な水素経済に重要な役割を果たす重要鉱物
-プラチナ価格は長い期間過小評価が続きゴールドよりも大幅な割安
図3:トランプ関税への懸念でプラチナリースレートは上昇したが、最近は落ち着いている。パラジウムはあまり変動なく、直近の供給懸念がそれほど強くないことを示唆

図4:リースレートの上昇がEFPレートを押し上げ2.8トンもの現物がNYMEX保管庫に動き、供給懸念が和らいだ

図5:米国の自動車産業はメキシコとカナダと密接な関係があり、一律関税は短期的な需要に大きな打撃の可能性

図6:市場の動きはプラチナ供給への懸念の方が顕著だが、自動車のPGM需要に関してはパラジウムへの影響の方が深刻

図7:米国の国内供給はプラチナよりもパラジウムの方が多い

図8:マーケットのタイト感はドル建てPGM価格には反映されていない

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