横山光昭さんプロフィール

横山光昭(よこやま・みつあき)さん

横山光昭(よこやま・みつあき)
家計再生コンサルタント、マイエフピー代表。
2001年から家計専門に活動。支出を「消・浪・投(R)」に分ける「家計の三分法」を用いた独自の家計管理と、誰でもできる「ほったらかし投資」を両輪に、相談者に豊かな今と老後の生活を手に入れてもらうことを目指している。家計相談はこれまでに2万6,000件を超え、机上ではなく「現場」にこだわるファイナンシャルプランナーとして活動。家では6人の子の父であり、「家族マネー会議」による金銭教育も知られている。TV、雑誌の協力、講演など多数。著書はシリーズ累計95万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』や『年収200万円からの貯金生活宣言』を代表作とし、著作は185冊、累計405万部となる。

やっぱりみんな悩んでた!新NISA、多いお悩みとは

トウシル:2024年1月から制度改定になった「新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)」ですが、2024年の1年間、新NISAがらみの相談はやはり増えたんでしょうか? 

横山光昭さん(以下、敬称略):増えましたね! 2年目に入った2025年も、現在進行形で増えています。投資自体初めて…という人よりは、すでになんらかの投資をしていて、新NISA開始で移行した方からの相談の方が多いように思いますね。

トウシル:どんな質問が多く寄せられていますか?

横山:新NISA口座では、1年間で投資できる額が、つみたて投資枠で120万円、成長投資枠で240万円、合計で360万円の投資が可能です。そして生涯では1,800万円、新NISA口座枠内に投資が可能なんですが、2024年は、この上限額を「埋める」のはどれくらいの速さで埋めればいいのか、というスピード感に悩んでいる人がとても多かったですね。

 つまり、全力でいけば、最短5年間で新NISA枠の生涯上限を埋めることができるんだけれど、速く埋めた方がいいか、時期を待った方がいいのか、というような悩みです。

 2025年に入ってからは、去年の相場を前提に、年初に年間上限額を埋めきった方がいいのか、タイミングを見るべきか、という点で悩んでいる人が多いですね。去年の夏以降は相場が乱高下したため、警戒心が働いているのかもしれません。

 そうはいっても、今後、株価や基準価額が上昇することを見越して、今年も余剰資金があるなら、もう1月に一括で成長投資枠を埋めちゃった方がいいのかな、というような…。

トウシル:それは非常に前向きな悩みですね…。相場次第なのでどうとも言えないと思うのですが、それに対して横山さんはどんな回答をしておられるんですか? 現実問題、年間の投資枠を、年初の1月に全部埋めるだけの余剰資金がある人って、そうそういないんじゃないかと思うんですが…。

横山:ですよね。そりゃあ、早く埋めた方が、運用期間が長くなるわけで、リターンも期待できるのは確かです。ただ、1月に上限額いっぱいまで突っ込めたとしても、去年のように、急落する可能性だってあるわけですし。

 だから、私としては、去年も今年も余剰資金があるならば、まずは上限の半分くらいを埋めてみて、その後は、相場が下がったタイミングで買うか買わないか決める、というように、様子見の部分を半分くらい残しておくのがいいのかな…と思っています。

 買わなかったことで、リターンを得る機会損失の可能性もありますが、そこにこだわりすぎると、投資のフットワークも悪くなりますから。

インタビューを受ける横山光昭さん
余剰資金をどこまで新NISAに投入するかは、それぞれのペースで決めるべき、と横山さん。横並びを意識して、急ぐ必要はない。新NISAフィーバーが落ち着いてきた2年目こそ、NISAも投資も、あくまでも手段であって、目的ではないことに立ち返りたい。

トウシル:そうですよね。生涯1,800万円まで新NISA枠に入れられるとはいえ、1,800万円をすぐ動かせる人は、もうすでに「お金持ち」ですよね…。

横山:そう。理論上、速く埋めることはできるけれど、できるかどうかは現実問題です。余剰資金じゃないお金まで突っ込む必要なんかないので、それは自分のペースを見失わないでほしいと思います。

トウシル:その「スピード問題」以外に、どんな質問が寄せられましたか?

横山:つみたて投資枠か成長投資枠か、どちらかだけを使うのか、両方とも併用するのか、どう使い分けるのか、という質問ですね。それぞれの枠の役割に悩んでいる人が多かったです。

トウシル:全世界型のインデックスファンドが最適解だ、という雰囲気が、なんとなく漂っちゃっているんですが、「つみたて投資枠でも成長投資枠でも、両方とも同じ[全世界型インデックスファンド]一本でいい」という考え方と、「いやいや、成長投資枠では、この枠でしか買えない個別株に挑戦しよう」という二つの選択肢で悩んでいる人が多いように感じています。

 横山さんはどう思われますか?

横山:「つみたて投資枠・成長投資枠ともに、全世界型のインデックスファンド一本でいく」という考え方でもいいと、私は思っています。

 ただ、その一本で全枠を埋めちゃうと「相場が下がったチャンス時に何も買えない」ということになるので、時間と資金に余裕がある人は、つみたて投資枠はインデックスファンドで埋めて、チャンスが来たら成長投資枠で、国内株や米株、ETF(上場投資信託)を買うという選択肢も有効だと思いますよ。

投資はしたいがお金がない…資金はどうつくる?

トウシル:横山さんは「家計再生コンサルタント」として、赤字家計を立て直す現実的なアドバイスをしてくださるFPとして有名なのですが、投資資金をどれだけ捻出するか、という問題も大きいですよね。

横山:そうですね。特に昨今、インフレで物価がどんどん上がっていて、家計を圧迫しています。切り詰められる部分がなかなか見つけられずに困っている方が増えたと感じています。

トウシル:新NISAで投資を頑張りたいけれど、そもそもの資金がない、という方にはどんなアドバイスをしておられますか?

横山:添え物のはずのキャベツが一玉1,000円もして、メインのトンカツより高い、なんていうニュースも聞きます。そこに老後資金も2,000万円じゃ足りないとか言われて、投資と生活を[同時進行]させなきゃいけない状況ですよね。家計のやりくりはとても大変だと痛感しています。

 これは昔から私がずっと言っていることなのですが、やはり[固定費]をまず見直すことが有効なんですよ。まずは家賃を見直す、低率の住宅ローンに借り換える、生命保険を見直す、携帯のキャリアを見直すなど、月々出ていくお金をしっかり最適額に抑えていくことが重要です。さらに最近だと、ついうっかり入ってしまったサブスクなどを見直すのも有効です。

トウシル:ただ、切り詰められるところは切り詰めた、という家庭に、これ以上の節約は辛いのではと思うのですが…。インフレの昨今、卵を買うのも、牛乳を買うのも、価格が上がっているわけで、「節約」は昔より難しくなっています。

横山:私が提案したいのは、「メリハリをつける」という考え方です。「ココではバーンと思い切って使うけれど、ココにはお金をかけない」という優先順位をつけると、メンタル面での悲壮感はかなり軽減できると思いますよ。支出の温度感に差をつけていくというか…。

 あれもこれも削ろうとすると、結局うまくいかないことが多い。全部で平均点を取ろうとするとお金って残りません。使っていいところと、極力お金をかけないところをしっかり決めて、そこは死守するという一線を引いてみるのがいいと思いますよ。

 つまり、「価格」よりも「価値」を重視して、お金の使い方を決めていきましょう。そう考えると「今の価値」と「将来の価値」も違ってきます。

 生きるために必要なお金は必須で確保する。その上で使う価値があると思えるお金は使う。さらに将来価値を発揮するはずの投資資金も無理のない範囲で確保する。これが骨子にあれば、厳しい今を乗り切って、将来も笑える家計設計につながると思います。

投資って、どうなったら「成功」と言えるのか?

トウシル:新NISAが始まり、投資人口が広がったのも事実です。楽天証券でも、貯金から投資に一歩踏み出した30代40代の若い世代がNISA枠を使って活発に資金投入しています。

 ただ、「自分のやり方はこれで合ってるのか…」と手探り状態だったり、「みんながやってるから自分もやんなきゃ」という横並び状態だったりすると、投資の本当のパワーを生かしきれていないように思います。横山さんは、投資って、どうなったら「成功」または「ゴール」だと思いますか?

横山:もちろん、一歩踏み出して投資を始めた時点でもうそれで「成功」ではあるんですが、今度はそうやって増やしたお金を「使う」というフェーズに入ってきたら、より「成功」に近づくんじゃないかなと考えています。

 お金って、貯めてるだけでは実は何の意味もなくて、使って、役立てて初めて意味が生じるんですよね。今は投資を始めたばかりの人は、「とにかく増やそう!」というフェーズにいるかもしれないけれど、「貯めた後、自分なりの使い方」が具体的に見えてきたら、人生の中で投資がもっと意味のあるものになると思います。

 遺産として残る分は別として、自分の人生でガマンばっかりして、お金を残してもしょうがないじゃないですか。増やしながらも、「使う」ことを考えてほしい。

 結婚、出産、進学、病気、老後など、来たるべき人生の大きな山を乗り越えるために備えるのとは別に、楽しいことややりたいことが「投資をしてお金を増やしたからできるよね」と思える人と、そこが見えていなくてただ「増やさなきゃ」と思っている人の差は大きいと思います。

トウシル:増やす=手段というわけですね。

横山:そうです。老後2,000万円問題が話題になりましたが、あれって2017年の家計調査の結果で、「夫婦で老後の生活費は約月々26万5,000円→年金は21万円 →月々約5万5,000円くらい足りない→5万5,000円×12カ月×30年=2,000万円、という計算だったはず。

 でも、住宅ローンが70歳まであるからもっと必要な人もいるし、住む場所によって物価も違うし、理想のライフステージも人それぞれで違いますよね。

 自分たちならどれくらいあれば足りるのか、シミュレートして、理想像と現実額にどれくらい差があるか、自分のケースに落とし込んで把握しておくことを強くお勧めします。これが分かると、今の投資がOKか、もうちょっと緩めていいのか、もっと頑張るべきかが分かってくると思いますよ。

インタビューを受ける横山光昭さん
「具体的な将来シミュレーションをすれば、いつまでに、いくら必要かが明確化します」と横山さん。「投資する」「増やす」から、つくった資産を「どう使うか」へ。新NISAは、より長期スパンで人生とお金を考えるいいきっかけになったといえる。

トウシル:逆に、新NISAで「やってはいけないこと」ってありますか?

横山:情報に振り回されすぎないでください。新NISAが始まって、メディアでも取り上げられることが増え、みんなちょっと…浮足立ってる感じがします。投資は習うより慣れよだと私も思うし、とにかく一歩踏み出したのはいいことなんですが、一応、投資の「基本のき」的なものを知らないまま突き進むと、ノイズみたいなものも拾っちゃう危険性があります。

 下落相場で狼狽(ろうばい)売りしたり、投資詐欺にだまされたり…。自分の軸がない状態で情報がいろいろ入りすぎると、振り回されて疲れちゃうので、まぁ、1年過ぎたところでいったん落ち着いて、自分が本来どうしたかったのか、改めて振り返ってほしいですね。

家族団結が最強!?新NISAのスゴイ使い方

トウシル:新NISAも2年目に突入で、横山さんもたくさんの相談を受けてこられたと思います。その中でも、「この人スゴイな」「これはスゴイ使い方だな」と思うようなケースはありましたか?

横山:去年1年、投資が生活の一部に浸透してきた現場を見て、気づいた新しい傾向としては、「家族で」資産形成に取り組もうとする方が増えたことですね。相談に来る方も、奥さんだけ、旦那さんだけ、じゃなくて、夫婦で来る。なんなら子供も連れてくる。

トウシル:子供もですか!

横山:はい。中高生くらいになると、ちょっと込み入った話も分かるじゃないですか。家族にとっても大事なお金の話なので「お金の有意義な使い方を教えてやりたいので、子供もこの場にいさせていいですか?」っておっしゃるんです。子供6人を含めて、家族で毎月、マネー会議をしていた私としては大歓迎です。

 新NISAは、生涯上限額が一人1,800万円。夫婦だと3,600万円。お子さんも18歳になればNISA口座がつくれるので、家族がタッグを組んだら強力な布陣がつくれます。資産形成の枠が広がるのはもちろん、教育上もめちゃくちゃいいことだなと思ってワクワクしています。

 これまでの日本は、「お金の話はがめつい、汚い」という風潮がどこかしらあったのですが、新NISAが始まったことで「目を背ける必要はない。真剣に向き合ってみんなで資産形成しよう」という風潮がもっと広まってくれればいいと思っています。

トウシル:とてもいい話です。日本人のお金意識が大きく変わるかもしれませんね。 

横山:そうなんです。横山家では、最近、子供が結婚して孫が生まれて、私、おじいちゃんになったんですけど(笑)、子供にぜひ若いうちから実践してほしいことがあるんです。それは、新NISAのつみたて投資枠を使って、できれば夫婦で月々10万円、ボーナス時期は+30万円、年間150万円、積み立てを20年間、続けてほしいということ。

 途中で支出がかさんで大変な時期もあるかもしれないけど、とにかく途絶えずに入金力を鍛えて、頑張ってみてほしい。そうなると、50歳になるころには預金だけでも3,000万円になってるし、投資していたら4,000万円くらいにはなってる可能性があります。50歳でこの金額を持っているか否かはすごく大きい。

トウシル:大きいですね! 10万円でなくても、余剰資金で金額を決めて、とにかく20年続けると、そこそこの金額になりますね。今、預金で持っている額を投資にスライドさせるというのも一つの方法なんですが、がんばって働いて得たお金を絶えず投資に入金し続ける「継続力」があるとさらに強い、というわけですね。

横山:はい。また、時折は成績を見直して、「成長投資枠で買った個別株をうまく成長させられていないな…」と思ったら、成長投資枠でもインデックスに切り替えちゃえばいいと思います。

 個別株は時間も知識も必要だし、タイミングにも左右されるので「自分は個別株の運用が、へたくそかも」と思ったらインデックス一本に絞ってもいいと思いますよ。時折見返して自分の強み弱みを知る、そして家族ぐるみで資産形成に取り組む。これが新NISAの「スゴイ使い方」だと思います。

トウシル:本日はありがとうございました!

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