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著者の松田 康生が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
トランプ政権の政策大解剖~2月のビットコイン見通し~

1月のビットコインイベント

NEW! 1月20日 トランプ大統領就任・ゲンスラーSEC委員長辞任
NEW! 1月23日 暗号資産大統領令・SAB121撤廃
NEW! 1月30日 パウエルFRB議長「銀行は完全に暗号資産顧客にサービス提供可能」

*2024年1月以降の主なビットコインイベントは記事最終ページにまとめています。
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材料面から見た2月見通し

1月の振り返り

1月のビットコイン価格(円)とイベント

1月のビットコイン価格(円)とイベント
出典:Trading Viewより楽天ウォレット作成

 1月のBTC相場は小幅上昇。高値圏で乱高下しつつ、12月に記録した史上最高値を小幅更新している。

 クリスマス前に10.8万ドルの史上最高値を更新したBTCだが、年末にかけてポジション調整気味に失速。年始は9.2万ドル台で始まると、そうしたポジションの買い戻しもあり、10万ドル台に値を伸ばした。

 しかし、「裁判所が押収などで、米政府が保有する約20万BTCのうち6.9万BTC(約1兆円)の売却許可を出した」と伝わり、市場を震撼させた。トランプ政権が、この20万BTCを戦略備蓄として保有するのではないか…とみられていたところ、その直前にバイデン政権が売却してしまいそうだ…と市場は懸念した。

 ところが、13日に8.9万ドルで切り返すと、新政権の暗号資産政策への期待もあって急反発した。就任日が近づくにつれ、政府保有分の売却の可能性が低くなっていくことも相場を後押ししたか。

 BTCは、就任式の数時間前に10.9万ドルで史上最高値を更新した。しかし、就任初日の演説でも、大統領令でも、暗号資産に関して触れられていなかったことから失速。4日目にようやく暗号資産に関する大統領令が出たものの、ほぼ事前報道通りだった。

 市場が期待した戦略備蓄の創設が後回しとなったことを嫌気し、上値を重くすると、27日には中国のスタートアップが6億ドルでOpenAIに匹敵するAIを作り、エヌビディア株が史上最大の時価総額を失った。この「DeepSeekショック」によるリスクオフで10万ドルを割り込んだが、月末にかけて値を戻した。

 2月に入っても、貿易戦争を巡る懸念から9.1万ドルに急落。メキシコとカナダ向けの関税が延期されたことで10.2万ドルに戻すも、中国への関税は発動された。同国も対抗措置を講じたこともあり、9.6万ドルに値を落とすなど、トランプ政策を巡って乱高下を続けている。

トランプ政権の暗号資産政策

トランプ政権の暗号資産政策

時系列

 1月のBTC相場は「トランプ一色だった」と言っても過言ではない。改めて、トランプ政権の暗号資産政策を時系列で振り返ってみよう。

 まず2025年1月20日、トランプ大統領の就任数時間前に暗号資産の価格が史上最高値となる10.9万ドルを更新した。

 同日、SEC(米国証券取引委員会)のゲンスラー委員長が辞任し、次期委員長であるアトキンス氏が承認されるまでの間、ウエダ委員が委員長代行を務めることとなった。また、トランプ大統領は、「バイデン政権下で行われたSECなどの業務に政治的偏向がなかったか」を徹底的に調査するよう命じる大統領令を発令した。

 翌日の1月21日には、SECのピアース委員が、規制の明確化を目的としたタスクフォースを設立した。

 そして1月23日、トランプ大統領は「米国をAIと暗号資産の首都にする」と宣言し、それに関連する大統領令に署名した。また、SECはSAB121(暗号資産に関する会計基準)を撤廃した。

 さらに1月24日には、「チョークポイント2.0」と呼ばれる問題について、上下両院での調査が正式に開始された。

大統領令

 大統領令の概要は以下の通りだ。

●デビット・サックス氏を議長とする、デジタル資産市場に関する大統領作業部会を設立

●作業部会は、ステーブルコインを含むデジタル資産を管理する連邦規制の枠組みを策定し、戦略的な国家デジタル資産備蓄の創設を評価・基準を作成

●中央銀行デジタル通貨(CBDC)を禁止

●前政権のデジタル資産大統領令と財務省のデジタル資産に関する国際的関与の枠組みを撤回

解説

 これらをテーマごとに整理し、解説すると

[1]規制の明確化:バイデン政権がゲンスラー委員長の下、暗号資産のうちどれが証券に該当するかをあいまいにしたまま、1930年代の証券法を使って暗号資産業者にスラップ訴訟を繰り返した。この点については、就任翌日からSECを中心に作業が開始されている。

[2]銀行の暗号資産参入:バイデン政権では「チョークポイント2.0」といって銀行に圧力をかけて暗号資産業者の銀行口座を解約させたり、暗号資産業者と取引を続ける銀行を破綻に追い込んだりしたと指摘されている。政権の交代とともに暗号資産業者から告発が続き、圧力をかける際に利用されたとされる預金保険公社には上下院の調査が入り、米消費者金融保護局は業務停止に追い込まれた。パウエルFRB議長は、「銀行は暗号資産顧客に銀行サービスを提供してもいいし、これまで基準を厳しくしていたのは新しい業界だったので慎重になり過ぎていたためだ」と言い訳するなど、半ばこれまでの誤りを認めている。また、銀行のカストディ参入を事実上拒んでいた、SECスタッフが設定した会計基準SAB121は、SECにより撤廃し、バンク・オブ・アメリカやモルガン・スタンレーが参入に意欲を見せている。

[3]戦略備蓄:基軸通貨国である米国は、外貨準備をほとんど保有していないが、その代わり金を保有している。そこにデジタルゴールドとしてBTCを加えるもの。原油備蓄に準拠するなど、それ以外の立て付けも検討されているもよう。トランプ大統領が7月に公約した。市場は就任直後の創設を期待したが、デビッド・サックス氏を議長とするホワイトハウス内の作業部会で、実現可能性を探ることとなっている。

公的資金でBTCを購入ないし検討している州

公的資金でBTCを購入ないし検討している州
ピンク:法案提出済 黄:検討中 緑:退職年金でETF購入済
コインデスクより楽天ウォレット作成

 ちなみに、この戦略備蓄については2種類の提案があり、シンシア・ルミス上院議員は、5年間で100万BTC購入する法案を提出している。発行量の5%を購入するというのは、実現すればすさまじいインパクトのある話だ。

 しかし、こうした追加購入型は議会を通す必要があり、共和党は過半数を取ってはいるが、上院で法案をいつでも通せる60議席には届いておらず、容易ではないとみられている。これに対し、すでに保有している20万BTCを戦略備蓄というカテゴリーで保有しても、市場の需給には影響はない。

 しかし、これを受けて追随する国が多数出てくると予想されている。コインデスクによれば、すでに公金でBTC投資を開始ないし検討している州は16に上るもようだ。