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著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「決算レポート:TSMC(今期もAI半導体は好調。ただし、それ以外は伸び鈍化へ)」
毎週月曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄:TSMC(TSM、台湾、NYSE ADR)
TSMC
1.TSMCの2024年12月期4Qは、38.8%増収、63.6%営業増益
TSMCの2024年12月期4Q(2024年10-12月期、以下前4Q)は、売上高8,684.61億台湾ドル(前年比38.8%増)、営業利益4,257.13億台湾ドル(同63.6%増)となりました。
前四半期比でHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング、AI半導体、パソコン、サーバー、ゲーム機向け等)向け、スマートフォン向けが順調に伸びたことで、売上高が前年比、前四半期比ともに大きく伸びました。このため、売上総利益率が前3Q57.8%から前4Q59.0%と上昇し、営業利益率も前3Q47.5%から前4Q49.0%に上昇しました。他の微細化世代に比べて採算が悪い最先端の3ナノの増加は売上総利益率の低下要因になりましたが、全体の増収でこれを吸収しました。
ちなみに、1年前の2023年12月期4Qは売上総利益率53.0%、営業利益率41.6%でした。1年間で売上総利益率、営業利益率がともに大きく上昇したのは、全体の売上高が増加したこと、AI半導体=AIアクセラレーター(AI用GPU、AI用ASIC、HBM用コントローラー(HBMを製造するときにDRAM(DDR5)のウェハを8枚または12枚積層するが、それに加えてコントローラー(制御用のロジックダイ。半導体チップをダイと呼ぶ)を1枚積層する))が大幅に伸びたためです。2024年12月期売上高のAI半導体売上構成比は10%台半ばで前年比3倍以上伸びました。AI半導体はエヌビディアの場合、4ナノ(5ナノの拡張版)ラインで生産しているため、利益の増加に大きく貢献したと思われます。
ウェハ単価は引き続き上昇しました。価格が高いAI半導体の売上増加が寄与していると思われます。
表1 TSMCの業績

株価(NYSE ADR) 211.50USドル(2025年1月17日)
時価総額 1,096,839百万USドル(2025年1月17日)
発行済株数 25,930百万株(完全希薄化後)
1台湾ドル 0.0304USドル(2025年1月17日)
単位:百万台湾ドル、台湾ドル、米ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:TSMCは台湾市場に株式を、ニューヨーク市場にADRを上場している。ここではADRの株価によってPERと時価総額を計算した。
注3:TSMCのADRは普通株5株からなる。
注4:会社予想は予想レンジの平均値。
グラフ1 TSMCのウェハ出荷枚数

グラフ2 TSMC:ウェハ1枚当たり売上高

2.AI半導体は2024年12月期は前年比3倍以上となった。2025年12月期は同2倍の見込み
テクノロジー別売上高を見ると、上述のように前四半期比では最先端の3ナノが大幅に伸びました。これは2024年9月発売の「iPhone16」シリーズが普及型から上位機種まで全て3ナノチップセット搭載となったこと、iPhone以外のスマートフォンでも3ナノチップセットを搭載する機種が出始めたこと、アップルが3ナノ技術で生産したM4チップ搭載MACを発売したことなどによります。次いで5ナノが増加しましたが、これはAI半導体の寄与と思われます。
分野別売上高を見ると、前四半期比ではスマートフォン向けは前3Q16%増、前4Q17%増となりましたが、これは季節的な伸びです。一方で、HPC向けは同11%増、19%増と持続的に伸びました。会社開示のテクノロジー別売上構成比から計算すると、前4Qのスマートフォン向けは前年比13.0%増に止まったのに対し、HPC向けは同71.1%増と大幅に伸びました。スマートフォン向けについては、アップルのiPhoneやそれ以外のスマートフォンの出荷台数は伸びていない模様ですが、スマートフォン向け半導体の高性能化が続いているため、単価上昇によって前年比増収になったと思われます。HPC向けについては、AI半導体の急増が寄与したと思われます。
AI半導体売上高は年度ベースでの開示になりますが、会社側によれば2024年12月期売上高の10%台半ばの売上構成比で、前年比3倍以上になりました。楽天証券の推定では、AI半導体売上高は2023年12月期約1,400億台湾ドルから2024年12月期約4,300億台湾ドルへ急増しました。会社側では2025年12月期は2倍を予想していますが、楽天証券ではAI半導体の需要が強いため、2.07倍の8,900億台湾ドルを予想します。また、2026年12月期は1兆3,000億台湾ドル(前年比46.1%増)と予想します。
会社側は今後5年間のAI半導体の成長を年率40%台半ばと予想しています。この予想では、2026年12月期以降の伸び率が鈍化することになりますが、楽天証券では、今後はAI半導体とAIサーバーの現在の大口顧客である大手クラウドサービス以外に、準大手以下のクラウドサービス会社や大手企業に需要層が拡大すると思われるため、2026年12月期も40~50%の高い成長率を予想します。
グラフ3 TSMCのテクノロジー別売上高

グラフ4 TSMC分野別売上高

表2 TSMCのテクノロジー別売上高

出所:会社開示の売上構成比より楽天証券計算
表3 TSMCの分野別売上高:前四半期比

表4 TSMCの分野別売上高

出所:会社資料より楽天証券作成
注:分野別売上高と前年比は会社公表の売上構成比より楽天証券試算。
表5 TSMCのAI半導体売上高

出所:会社資料、会社コメントより楽天証券推定。
3.楽天証券の2025年12月期利益予想を下方修正する。海外工場の生産拡大と設備投資増加で売上総利益率の低下要因が発生する見込み。
会社側の2025年12月期1Q業績ガイダンスは、売上高250~258億米ドル、1ドル=32.8台湾ドル、売上総利益率57~59%、営業利益率46.5~48.5%です。ここからレンジ平均値を計算すると2025年12月期1Qは売上高8,331億台湾ドル(前年比40.6%増)、営業利益3,957億台湾ドル(同58.9%増)となります。スマートフォン向けは季節的に減少しますが、AI半導体中心にHPC向けの増加が続く見込みで、これが業績拡大を牽引すると予想されます。
また、会社側は2025年12月期の米ドルベース増収率を20%台半ば近くとしています。恐らく会社側は25%弱の増収率を予想していると思われます。この場合、AI半導体以外は11%台後半の伸びに鈍化することになります。iPhone向けを始めとするスマートフォン向けの伸びが鈍化し、パソコン向けも緩やかな伸びに止まると会社側は予想していると思われます。
ただし、楽天証券ではAI半導体については会社予想以上の伸びを予想しており、AI半導体以外もAIパソコン、AIスマートフォンの寄与が多少は見込めると予想します。
一方で、営業利益率は前期に比べて下落する要因があります。会社側では海外生産の拡大で今後数年間毎期2~3%ポイントの売上総利益率下落要因が発生するとしています。また、今期については、台湾の電力料金上昇で約1%ポイント、2ナノ生産ラインの立ち上げと5ナノから3ナノへの転換で約1%ポイントの売上総利益率低下要因が発生する見込みです。2025年12月期は合わせて4~5%ポイントの売上総利益率低下要因が発生することになります。
AI半導体もその他の半導体も増収になる見込みなので、限界利益は増加する見込みですが、これらのコスト増加を考慮して、楽天証券では2025年12月期を売上高3兆6,500億台湾ドル(前年比26.1%増)、営業利益1兆5,900億台湾ドル(同20.3%増)と予想します。営業利益予想は前回予想から下方修正します。
また、2026年12月期は売上高4兆6,000億台湾ドル(同26.0%増)、営業利益2兆400億台湾ドル(同28.3%増)と予想します。海外生産拡大に伴う年間2~3%ポイントの売上総利益率低下が続く見込みであり、2025年12月期4Qと予想される2ナノの量産開始も売上総利益率の低下要因ですが、AI半導体の増収、3ナノの採算向上によって、営業利益率は2025年12月期より上昇すると予想されます。
設備投資は2023年12月期304.5億米ドルから2024年12月期297.6億米ドルへほぼ横ばいでした。2025年12月期の会社計画は380~420億米ドルです。このうち約70%が高度プロセス(前工程)、10~20%が特殊技術、10~20%が高度パッケージング、テスト、マスク製造に充てられる見込みです。ただし、前4Q設備投資は112.3億ドルなので、今後四半期ベースで伸びることは期待しにくいと思われます。
なお、台湾政府は半導体産業に対するN-1ルールを撤廃しました。これは、台湾の半導体メーカー(実際にはTSMC)が海外生産を行うときに、最先端ラインの1世代前までの微細化世代の生産ラインなら構築できるとするルールです。これが撤廃されたため、米国に最先端ライン、今なら2ナノラインを構築できるようになりました。ただしTSMCは、実際には研究設備がある台湾でなければ最先端ラインの構築は難しいとしています。この点は、今後米トランプ政権との交渉の焦点になる可能性があります。
グラフ5 TSMC:四半期設備投資

グラフ6 TSMCの年間設備投資

4.今後6~12カ月間の目標株価は前回の280ドルを維持する
TSMCの今後6~12カ月間の目標株価は前回の280ドルを維持します。
長い目で見て、楽天証券の2026年12月期予想EPS(1株当たり利益)10.61米ドルに地政学的リスクと成長性の両方を考慮し、想定PER(株価収益率)25~30倍を当てはめました。
長期的には投資妙味を感じますが、目先ではAI半導体以外の伸び鈍化と2025年12月期に予想される営業利益率の低下、トランプ政権の台湾に対する態度がどのようになるのか不透明であるというリスクがあります。株価上昇には時間がかかる可能性もあります。
<参考>
表6 世界スマートフォン出荷台数:四半期ベース

出所:iDCプレスリリースより楽天証券作成
表7 世界パソコン出荷台数:四半期ベース

出所:iDCプレスリリースより楽天証券作成
本レポートに掲載した銘柄:TSMC(TSM、台湾、NYSE ADR)