日本に「金利のある世界」が到来
2024年3月、日本銀行はYCC(イールドカーブ・コントロール)の撤廃と約8年間続いたマイナス金利政策を解除し、約17年ぶりに利上げを行いました(図1)。日銀が金融政策の正常化を進めた背景には、賃金上昇を伴う形で物価が上昇基調に入ったことが挙げられます。
コロナ禍からの経済再開に伴う需要の急速な回復や、地政学的リスクの高まりによるエネルギー価格の上昇、円安に伴う輸入物価の上昇などをきっかけに、日本でも物価が急激に上昇してきました。
また企業側では増加したコストを価格に転嫁する動きが広がり業績が好調なことや、少子高齢化が進み人手不足が深刻化する中で優秀な人材を確保するため、賃上げが広がっています。今後も賃金と物価の好循環が続けば、日銀がさらなる利上げを実施する可能性もあるでしょう。
金利水準の上昇で銀行業における「利ざや」が拡大
金利上昇の恩恵を受ける代表的な業種は銀行業です。金利の上昇によって銀行業の二つの「利ざや」が改善しています。
一つは「日銀当座預金の利ざや」です。銀行は貸出や運用に回さない一部の資金を「銀行の銀行」である日銀に預けています。日銀が導入したマイナス金利政策では、日銀当座預金が三つの階層に分割され、それぞれの階層ごとにプラス金利、ゼロ金利、マイナス金利が適用されました。
現在はマイナス金利政策の解除によって一律プラス金利が適用されているほか、利上げに伴って適用金利が上昇し、銀行の日銀預入利息収入は大きく改善しています。
もう一つは「貸出金の利ざや」です。企業などへの貸出金利は、市場の金利をベースに融資先企業との交渉によって決まります。図2は日本の10年国債利回りと、預金金利と貸出金利の差を表す預貸金利ざやの推移を示しています。足元市場金利である10年国債利回りの上昇によって貸出金利が上昇し、預貸金利ざやが改善していることが分かります。
収益性が改善する一方で、銀行業のPBR(株価純資産倍率)は0.4倍と東証33業種の中で最も低い水準です(図3)。日本の銀行株は持続的な金利低下によって収益性が悪化し、投資家の期待感の低下から長期的にPBR1倍割れの状態が続いてきました。
2023年に東証が「資本コストや株価を意識した経営」の推進に関する要請を公表して以降、銀行でも増配や自社株買いなど株主還元が強化されPBRは改善傾向にあります。しかし、銀行株のPBR1倍に向けた改善余地は依然として大きく、割安に放置されていた銀行株は政策保有株式の売却や成長投資の拡大、株主還元の増強などが市場で評価されるにつれて、今後も株価上昇が期待されます。
高配当の銀行株に投資するETFが登場
2024年1月9日に上場したグローバルX 銀行 高配当-日本株式 ETF(315A)は、東京証券取引所が算出する「配当込みTOPIX銀行業高配当指数」への連動を目指すETF(上場投資信託)です。同指数では銀行株の配当金総額や配当利回りに着目して銘柄を選定します。メガバンク3グループのほか、ネット銀行から地方銀行まで幅広い銀行で指数を構成しています。
銀行では増配など株主還元増強の動きが見られますが、全ての銀行が同様に増強できるとは限りません。対象株価指数は「配当」に着目して銀行株を選別するため、相対的に資本収益性や成長性が高い銀行株に的を絞って投資することができます。
図5は指数のパフォーマンスと配当利回りの推移です。対象株価指数はコロナショックからの戻りこそ出遅れましたが、2022年に日銀が1回目のYCC修正を行ったころからTOPIX(東証株価指数)を大きく上回ってきています。
また、対象株価指数の配当利回りはTOPIXやTOPIX銀行業指数より高水準です。なお、直近数年間の利回りの低下は、左のグラフを見て分かる通り、指数のパフォーマンスが好調なためです。
ETFの詳細については以下の動画で解説していますので、ぜひご視聴ください。