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著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「決算レポート:マイクロン・テクノロジー(HBMが好調)」
「決算レポート:ブロードコム(AI関連が好調。顧客も増加)」
「セクターレポート:半導体製造装置(半導体製造装置メーカー5社の目標株価を引き下げる)」
毎週月曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄:マイクロン・テクノロジー(MU、NASDAQ)、ブロードコム(AVGO、NASDAQ)、ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、NASDAQ)、レーザーテック(6920、東証プライム)、東京エレクトロン(8035、東証プライム)、ディスコ(6146、東証プライム)、アドバンテスト(6857、東証プライム)
マイクロン・テクノロジー
1.マイクロン・テクノロジーの2025年8月期1Qは、84.3%増収、営業黒字に転換
マイクロン・テクノロジー(以下マイクロン)の2025年8月期1Q(2024年9-11月期、以下今1Q)は、売上高87.09億ドル(前年比84.3%増)、営業利益21.74億ドル(前年同期は11.28億ドルの赤字)となりました。DRAMの最新規格「DDR5」の出荷増加と単価上昇、AI半導体に必須の大容量高速広帯域の特殊メモリ「HBM」の売上高増加が寄与しました。
テクノロジー別(製品別)売上高を見ると、今1QのDRAMは64.00億ドル(前年比86.8%増)となり、前4Q53.26億ドルから増加しました。DDR5の出荷増加と製品ミックスの改善による単価上昇、HBMの増加が寄与しました。HBM売上高は決算電話会議における会社側発言をもとにした楽天証券推定で、前3Q1億ドル、前4Q5億ドル、今1Q11億ドルと増加し、全社の営業増益に貢献しました。HBMは2025暦年分が全て完売しています。
ただし、NANDは今1Q22.41億ドル(同82.2%増)と前年比では大幅増でしたが、前4Q23.65億ドルからはやや減収となりました。NANDの技術革新(主に微細化と積層化)が進みすぎて、需要を上回る生産になり始めているため、供給を制限し始めた模様です。需要の伸びが鈍いということです。
表1 マイクロン・テクノロジーの業績

時価総額 100,123百万ドル(2024年12月20日)
発行済株数 1,122百万株(希薄化後、Diluted)
発行済株数 1,111百万株(希薄化前、Basic)
単位:100万ドル、%
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
注3:会社予想は予想レンジの平均値。
表2 マイクロン・テクノロジー:テクノロジー別売上高

出所:会社資料より楽天証券作成
2.ビジネスユニット別業績動向-HBMが好調-
今1Qのビジネスユニット別業績を見ると、コンピュート&ネットワーキングは、売上高43.95億ドル(前年比2.53倍)、営業利益17.11億ドル(前年同期は3.97億ドルの赤字)と好調でした。データセンター向け、AI半導体向けはコンピュート&ネットワーキングに入るため、AI半導体向けHBMの増収と収益寄与の向上、データセンター向けの価格の高い高級DRAMの増加が寄与しました。
モバイルは、売上高15.27億ドル(同18.1%増)、営業利益3.27億ドル(前年同期は6.87億ドルの赤字)となりました。前年比では業績は回復しましたが、前4Q比では減収減益となりました。会社側はスマートフォンの最終需要は順調としながらも、スマートフォンメーカーがDRAM、NANDとも在庫調整に入ったため、マイクロンでも供給を絞りました。
ストレージは、売上高17.31億ドル(同2.65倍)、営業利益3.47億ドル(前年同期は4.90億ドルの赤字)となりました。パソコン、サーバー向けSSDの容量拡大と出荷増加が寄与しました。ただし、前述のように需要に対して供給が多くなりすぎたため、今2Qは供給を絞る見込みです。
組み込みは、売上高10.52億ドル(同1.4%増)、営業利益0.11億ドル(同10.0%増)となりました。前4Q比で減収減益となりました。自動車向けが振るわず、低水準の業績となりました。
今後を見ると、HBMは好調が続き、全社営業利益への寄与も向上すると思われます。マイクロンの「HBM3e」はエヌビディアの新型AI半導体「Blackwell」の中の「B200」「GB200」に採用されており、この寄与が今後本格的に出てくると思われます。
ただし、中国のDRAMメーカーが一世代前の「DDR4」を増産していること、一部の中国メーカーが「DDR5」の生産を始めた模様であることが、「DDR5」の価格にネガティブな影響を与えることが予想されます。また、スマートフォン向け、パソコン向けは、会社側は最終製品の需要は順調としながらも、スマートフォンメーカー、パソコンメーカーがDRAM、NANDの在庫増加に対応して在庫調整に入っている模様であり、そのため、マイクロンもスマートフォン向け、パソコン向けの供給を絞る方向です。
その結果、今2Qは今1Q以上にコンピュート&ネットワーキングが全社を牽引することになると思われます。
表3 マイクロン・テクノロジー:ビジネスユニット別業績

出所:会社資料より楽天証券作成
表4 コンピュート&ネットワーキング詳細

出所:決算電話会議における会社コメントより楽天証券作成。HBM売上高は会社コメントを元にした楽天証券推定。
3.楽天証券の今期、来期業績予想を下方修正するが、業績変化率は大きい
今2Qの会社側業績ガイダンスは、売上高79億ドル±2億ドル、売上総利益率37.5%±1%、販管費12.4億ドル±0.15億ドル、完全希薄化EPS(1株当たり利益)1.26ドル±0.1ドルです。ここから計算すると今2Q会社予想は売上高79億ドル(前年比35.6%増)、営業利益17.2億ドル(同9.01倍)となります。今1Q比減収減益となりますが、これはDRAMとNANDの在庫調整のためです。ただし、採算の良いHBMの出荷増加の影響で、減益幅は抑えられる見込みです。
楽天証券では、今1Qまでのテクノロジー別、ビジネスユニット別業績動向と会社側の今後の見方を元に、マイクロンの2025年8月期を売上高338億ドル(前年比34.6%増)、営業利益80億ドル(同6.13倍)、2026年8月期を売上高417億ドル(同23.4%増)、営業利益130億ドル(同62.5%増)と予想します。前回予想の2025年8月期売上高410億ドル、営業利益110億ドル、2026年8月期売上高530億ドル、営業利益170億ドルから下方修正します。
楽天証券予想の下方修正要因は、スマートフォン、パソコンメーカーのDRAM、NANDの在庫調整に対応し、マイクロンでも出荷を絞り始めたことによります。会社側はこの在庫調整は一時的であるとしていますが、楽天証券ではスマートフォン向け、パソコン向けの回復は緩やかなものになると考えており、コンピュート&ネットワーキングが全社業績を牽引する状況が当面は続くと予想します。
なお、2025年8月期設備投資は会社計画では約140億ドルになります。ほとんどがDDR5とHBMの生産能力増強に充てられる見込みです。
表5 マイクロン・テクノロジー:ビジネスユニット別業績

出所:会社資料より楽天証券作成
グラフ1 マイクロン・テクノロジーの設備投資:四半期ベース

グラフ2 マイクロン・テクノロジーの設備投資:年度ベース

4.今後6~12カ月間の目標株価を前回の180ドルから120ドルに引き下げる
マイクロン・テクノロジーの今後6~12カ月間の目標株価を、前回の180ドルから120ドルに引き下げます。楽天証券の業績予想は下方修正しましたが、依然として変化率が大きいことに注目したいと思います。楽天証券の2025年8月期予想EPS5.89ドルに対してHBMの成長性を考慮し想定PER(株価収益率)20~25倍を当てはめました。
ただし、DRAMという製品の性質上、需要と価格の変動が激しいため、1年以上の長期投資には必ずしも向かないと思われます。