サイクル

 ひとは新生児として生まれてきて、幼児から学童へ、そして青年に成長した後、壮年を経て最後には老衰し、死にます。

 アレクサンダー・チャイズは『地球生物学的サイクル』という著書の中であらゆる自然現象や社会現象には周期性があると主張しました。経済のサイクルに関しての研究ではチャールズ・ジェンナーが有名です。しかし株式市場の参加者の間で最も有名なサイクルの研究者はニコライ・コンドラチェフだと思います。

「コンドラチェフの波」は経済の長期波動のリズムを解き明かそうとする理論であり、「第一波」から「第五波」までをひとつのセットとみなしました。

 コンドラチェフは1892年にロシア北西部のヴォログダ州に生まれサンクトペテルブルグ大学で農業経済を研究しました。

 彼の主張は「経済には自然発生的な周期性、つまりうねりが存在し、必然的に上昇期と下降期がやってくることは避けられない」というものでした。コンドラチェフの理論に従えば経済や農業の発展には一定の準備期間が必要で、急激な変化はとんでもない災いを招きかねないのです。

 そのころ独裁者スターリンは「計画経済に基づき経済成長は国家の指導の下、右肩上がりに一直線に進むべきだ」と主張していました。つまりスターリン体制においては「経済の波動」自体が資本主義の欠陥なのであり、その点、うねりのない計画経済の方が理念として優れていると考えたわけです。

 スターリンが目指した「終わりのない発展」という社会主義のイデオロギーからすれば、コンドラチェフが主張していることは資本主義へのおもねりであり、それは反革命的だというわけです。

 コンドラチェフは捕らえられ、処刑されました。

 その一方でスターリンは第一次五カ年計画を遂行するため急進的な農業の集団化を強行するとともに農民から厳しく穀物を取り上げ、それを国際市場で販売することで工業化のための原資を作りました。これが原因でウクライナでは300万人が死亡する大飢饉が発生し、ソ連はそれをひた隠しました。

株式市場に「終わりのない発展」など存在しない

 いまはAIブームたけなわで、投資家の間「AIブームは末永く続く!」という強いコンセンサスが形成されています。

 しかしAIが最初に登場したのは1950〜1960年代の第一次AIブームであり、その時に基本的なアルゴリズムが発展しました。その後1970年代以降は「AIの冬」と呼ばれる停滞期がありました。現在は第三波だと考えられています。

 つまり「未来永劫(えいごう)にわたりAIは発展する!」という主張は、そもそもAIの歴史すら知らないテクノロジー音痴の未熟な考えなのです。

 そのほか「永遠の発展」が幻想に過ぎない例として第二次世界大戦の後の日本の高度成長、ドイツの奇跡の復興が、いずれも終焉(しゅうえん)したことは、いまさら私からスリコミされるまでもなく皆さんよくご存じの事実だと思います。

バフェットを語気強くdisった学生はいまいずこ?

 もっと最近の例では2003年以降のBRICsブームの際、ウォーレン・バフェットがペトロチャイナの株を買い、それが急騰したので2007年の7月から9月にかけて全部処分したことがありました。

 するとバークシャー・ハサウェイの株主総会で、ある学生が「バフェットさん、あなたは間違っている!」と発言し、バフェットは「うん、たしかに自分は間違っているのかもしれない」と謙虚な応対をしました。その頃のペトロチャイナの株価は約14香港ドルで、売りのタイミングとしては絶妙な高値での売り抜けとなりました。

 つまり投資経験の浅い若造が「未来永劫にこのブームは続く!」とか言い始めたら、相場的にはもう煮詰まっていると考えたほうがけがが少ないのです。

マーケットを畏怖せよ!

 我々は教条的な計画経済の下で相場を張っているのではなく、常に息づき、変化し、うねりを生じる市場経済を生きています。そうである限り、マーケットの行き過ぎや、その反動としての極端な低迷期は自然な現象として受け容れざるを得ないのです。

 この自然の摂理を否定する者は、お金持ちにはなれません。