※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「2025年の中国経済を先読み。「適度に緩和的」な金融政策で迷走からの脱却なるか?」
「迷走」が続く中国経済
2024年も残り1カ月を切りました。まだ検証するには時期尚早かもしれませんが、本連載でも繰り返し指摘してきたように、今年の中国経済は終始「迷走」してきたというのが私の現段階における総括です。
11月28日に配信したレポート「トランプ氏が『中国に10%の追加関税』表明。迷走続く中国経済にさらなる打撃か?」で10月(1~10月)の統計結果を基に解説したように、個人消費には若干の改善が見られるものの、工業生産、固定資産投資、不動産関連などの指標を俯瞰(ふかん)すると、特に下半期、中国政府が財政出動、金融緩和、不動産&株式市場支援といった「てこ入れ」をしてきたにもかかわらず、なかなか回復してきません。
さらに、一部発表されている11月の統計を見てみると、CPI(消費者物価指数)が前年同月比0.2%ポイント上昇と、5カ月ぶりに低い伸びとなりました。PPI(生産者物価指数)も同2.5ポイント下落。中国経済が依然としてデフレ基調で推移している現状を物語っているといえます。
11月のPMI(購買担当者指数)も見てみましょう。政府機関である国家統計局と民間の財新/S&Pグローバルが発表した数字を、過去数カ月の統計を含めて整理してみました。

直近の11月、両方の発表における製造業と非製造業全てにおいて、景気状況の拡大・悪化の分かれ目となる50を上回っています。製造業部門が伸びている一方、サービス(非製造業)部門の伸び率が鈍化している背景には、新規受注に堅調さが見られる企業・業界と、新規事業の伸びが鈍化する企業・業界が併存している現状があるように思われます。
中国経済は依然として「迷走」している。すなわち、今後どっちに転ぶか分からないと私が判断するゆえんでもあります。
習近平政権の現状認識と見通し
そんな中、12月9日、中国共産党の最高意思決定機関である中央政治局が会議を開き、アジェンダの一つとして、2025年の経済政策を審議しました。来年の経済情勢・政策を占う上で、私が重要で示唆(しさ)に富むと判断した、会議での文言は以下の通りです。
- 従来以上に積極的で効果の見込めるマクロ政策を実施すること
- 経済の持続的な回復と改善を推進すること
- 不動産市場と株式市場を安定させること
- 従来以上に積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策を実施していくこと
- 大々的に消費を促進し、投資の効果と収益を向上させ、国内需要を全方位に拡大すること
これらの文言から、習近平(シー・ジンピン)政権指導部として、「2024年を通じた景気動向、およびそれを促すための政策は十分ではなく、2025年は、財政出動や金融緩和を含め、今年以上に積極的、大々的に実施していく必要がある」という現状認識、もっと言えば、危機感を抱いていることが見て取れます。
日本メディアを含め、金融政策を巡る表現が、従来の「穏健」から「適度に緩和的」に変化した点を取り上げていますが、私も重要な動向だと捉えています。「適度に緩和的な金融政策」という表現は、中国中央政策が「リーマン・ショック」後に大々的な景気支援策を打ち出した2009〜2010年以来になります。2011年以降は、「穏健な金融政策」という言葉が使われてきていました。文字通り、「穏健」よりも「適度に緩和的」のほうが政策の強度としては強くなります。
国営新華社通信も12月10日に発表した論評の中で、この変化は市場に前向きなシグナルを発信しようとするものという指摘をしています。
「[穏健]から[適度に緩和的]という変化は、金融政策が緩和的か緊縮的かを表しており、実体経済の資金を巡る血液と動脈に直接関係する。[適度に緩和的]な金融政策というのは、合理的な通貨の供給量、低レベルの金利水準、相対的に緩和的な貸し付け環境などを示している」
中国政府がこの期間公式の立場として繰り返し表明してきたように、直近、中国経済を巡る最大の問題の一つが需要不足であり、この問題を解決するためにも、財政出動に比べると若干弱かった金融緩和というマクロ政策を強化することで、国内外の市場関係者が、2025年の中国経済に自信と期待値を高められるように今から発信しようとしているものと思われます。
1年に1度の「中央経済工作会議」に注目
2024年の中国経済をレビューし、2025年の中国経済をプレビューする上で、極めて重要な会議が、1年に1回、12月に行われる「中央経済工作会議」です。今年は、まさに私が本稿を執筆している12月11~12日にかけて北京で開催されていると見込まれています。
今年の経済情勢を検証した上で、来年度の成長率目標をどう設定するかなども内々に議論されます。私の見方では、中央経済工作会議では、前述した12月の中央政治局会議で定めた方向性を基に議論が進められ、それらが来年3月に開催される全国人民代表大会(全人代)につながっていきます。
毎年3月に行われる全人代では、国務院総理が「政府活動報告」を発表しますが、その場で、その年の成長率目標、財政赤字率、それらを実施するための具体的な政策などが発表されます。要するに、12月から3月というのは、年を跨いで、中国経済を巡る情勢や政策を検証し、見通す上で最も重要な季節ということになります。
それだけ重要な中央経済工作会議ですが、閉幕後、会議の内容や結果が公式に発表される予定です。今週中には何らかの形で、何らかの内容が表に出てくるはずですので、来週のレポートで、その中身や内容を検証する作業を行っていきたいと思います。