※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「決算レポート:セールスフォース(CRM最大手。生成AIブームの中で業績好調)」
「決算レポート:パランティア・テクノロジーズ(生成AIブームでビッグデータ分析関連事業が拡大)」
「銘柄レポート:スーパー・マイクロ・コンピューター(10K提出期限は2025年2月25日)」
毎週月曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄:セールスフォース(CRM、NYSE)、パランティア・テクノロジーズ(PLTR、NASDAQ)、スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI、NASDAQ)
セールスフォース
1.セールスフォースはクライアント・マネジメント・システム世界最大手
今回は前回2024年12月2日号「セクターレポート:生成AIとクラウドサービスの現状と展望(生成AIがいよいよ実務の中へ。クラウドサービスは「ティア2」に注目)」の続きとして、生成AI関連銘柄として、セールスフォース、パランティア・テクノロジーズを取り上げます。また、スーパー・マイクロ・コンピューターについて、10K提出に向けた動きがあったので、それについても報告します。
まず、セールスフォースです。セールスフォースは世界のクライアント・マネジメント・システム(以下、CRM。顧客管理システム)市場でトップの位置にあります。2023年の世界シェアランキングではトップの21.7%で、2位のマイクロソフト5.9%を大きく引き離しています。
CRM市場は2024年から2032年まで年率12.6%で成長すると予想されています。CRMは企業が顧客管理を行うためのシステムで、販売、マーケティング、サービス等に関する各種の機能を持っていますが、すでに普及しているため、市場成長率は高いものではありません。ただし、生成AIをCRMに組み込むことにより、AIアシスタントを装備し、さらに進んでAIエージェントを装備する段階に入っています。これによって、より精密な顧客分析を行い、より綿密な販売政策や顧客サービスを行うことができるようになり、導入企業にとっては、より高い効果が期待できるようになります。CRMメーカーにとっては生成AIをサポートに使うため採算が向上する期待が持てるようになっています。
CRMメーカーの中で、AIと生成AIへの取り込みが最も進んでいるのがセールスフォースであり、2024年10月からAIエージェント「Agentforce(エージェントフォース)」の提供を開始しました。「Agentforce」によってAIアシスタントよりも複雑な作業が可能になります。
表1 クライアント・マネジメント・システム(CRM)の世界シェア(2023年)

グラフ1 CRMの世界市場予測

2.2025年1月期3Qは、8.3%増収、26.1%営業増益
セールスフォースの2025年1月期3Q(2024年8-10月期、以下今3Q)は、売上高94.44億ドル(前年比8.3%増)、営業利益18.93億ドル(同26.1%増)となりました。
全社では一桁増収でしたが、クラウドベースのCRMを分野別に見ると、「セールス」が前年比11.2%増、「サービス」が同10.3%増、「プラットフォームその他」が同8.2%増、「マーケティング&コマース」が8.5%増と順調でした。「インテグレーション&アナリティックス」のみ同5.5%増と低い伸びに止まりましたが、これは今2Qまでが好調だったため、その反動が出たと思われます。
営業利益率は1年前の前3Q17.2%から、今2Q19.1%、今3Q20.0%へ上昇しました。セールスフォースの営業利益率は2022年1月期通期2.1%、2023年1月期3.3%から2024年1月期14.4%へ上昇し、2025年1月期はさらに上昇する見込みです。これはクラウドネットワークによる配信が主流になったことでソフトウェアの販売コスト増加が抑えられていること、生成AIをサポートに使うことがコスト削減に結びついたこと、これらのAI化に合わせて人員削減を実施したことによります。
ソフトウェアを売り切りからクラウドネットワークを使ったサブスクリプションに切り替えることで顧客は常に最新バージョンのソフトウェアを使うことができます。サポートもオンライン化し、さらに生成AIを使うことでより早く的確なサポートを受けることができます。メーカー側から見ると、生成AIを使うことで、ソフトウェアの販売コスト、サポートコストの伸びが抑えられ、マーケティングを効率化することができます。セールスフォースは2009年に「Service Cloud」を提供開始して以来、全ての分野でクラウド化を進めてきました。
セールスフォースは2016年9月に予測AI「Einstein(アインスタイン)」を発表しました。その後「Einstein」はCRM用の各種予測ができる予測AIとして顧客に活用されるようになりました。そして、2022年11月からの生成AIブームの中では、「Einstein」の生成AIバージョンを導入し、サポートに使っています。
生成AIを全社的に導入するにあたって、セールスフォースは2023年1月期から2025年1月期にかけて人員削減を実施しています。これによって、生成AIに対応できる体制ができました。また、2025年1月期は人員増強も行っており、生成AIを事業全般に導入した効果がでています。
表2 セールスフォースの業績

時価総額 346,062百万ドル(2024年12月6日)
発行済株数 965百万株(完全希薄化後、Diluted)
発行済株数 956百万株(完全希薄化前、Basic)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
注3:会社予想は予想レンジのレンジ平均値。
表3 セールスフォース:製品・サービス別業績(四半期)

出所:会社資料より楽天証券作成
3.AIエージェントが普及途上に。2026年1月期も好業績が予想される
セールスフォースの2025年1月期4Q会社側ガイダンスのレンジ平均値は、売上高100億ドル(前年比7.7%増)、営業利益21.20億ドル(同30.7%増)です。増収率は若干鈍化する見込みですが、営業利益率は引き続き上昇する見込みです。この今4Qガイダンスに従うと、2025年1月期通期の会社側ガイダンスは売上高379億ドル(同8.7%増)、営業利益75.04億ドル(同49.8%増)となります。前回の会社側ガイダンスから少しだけ上方修正されました。楽天証券でも同じ水準の業績を予想します。
今後も各分野のCRMが順調に拡大すると予想されます。また、AIアシスタントの次の段階であるAIエージェントとして「Agentforce(エージェントフォース)」を2024年10月29日から提供開始しました。AIアシスタントの基本機能であるメール文書などの定型文書の作成、会議の要約、質問に対する返答などからさらに先に進んで、より複雑な処理を行うことができます。現在顧客の導入が進んでいるところです。セールスフォースの競争力強化につながると思われます。
楽天証券では、生成AIが2025年から本格的に企業の情報システムに組み込まれる動きが進行し、幅広い業種の企業、特に大手企業を巻き込む動きになると予想しています。この見方と、セールスフォースのCRMトップの地位と生成AIに関して先行したことを評価して、2026年1月期を売上高414億ドル(前年比9.2%増)、営業利益106億ドル(同41.3%増)と予想します。
引き続き業績好調が予想されます。
表4 セールスフォース:製品・サービス別業績(通期)

出所:会社資料より楽天証券作成
グラフ2 セールスフォースの残存履行義務

4.今後6~12カ月間の目標株価を450ドルとする
セールスフォースの今後6~12カ月間の目標株価を450ドルとします。
楽天証券の2026年1月期予想EPS(1株当たり利益)8.82ドルに、楽天証券の2026年1月期予想営業増益率41.3%、今後の業績拡大を評価してPEG=1.2~1.3倍として、想定PER(株価収益率)50~55倍を当てはめました。
中長期で投資妙味を感じます。