今週は季節的に株価が上昇しやすい12月ということもあり、一足早い「クリスマス・ラリー」に期待できそうです。

 米国では節税対策もあって10~12月は含み損が出た株を売り、その年に得た利益と相殺する動きが広がります。

 この「タックスロス・セリング」(節税対策で実現損を出すための売り)が12月25日のクリスマスごろに一巡するので年末年始は株価が上昇しやすい、というアノマリー(値動きのクセ)がクリスマス・ラリーです。

 しかし、2024年はトランプ次期米国大統領に対する期待感の高まりで、米国株はタックスロス・セリングの大きな調整もなく上昇。

 日本株もようやくその恩恵を受け、先週の日経平均株価(225種)は前週末比883円(2.3%)高の3万9,091円まで4週間ぶりに上昇しました。

 また、隣国の韓国では3日(火)夜、親日派のユン・ソンニョル大統領が突如、戒厳令を宣言し、即撤回する政治的大混乱が発生したものの、韓国向け売上比率の高い一部の半導体関連株を除き日本株に対する影響は軽微でした。

 むろん、世界一強といえる米国株にも死角らしい死角はありません。

 先週、機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は前週末比0.96%高と3週連続で上昇し、6日(金)には史上最高値を更新。

 ハイテク株が集まるナスダック総合指数も3.34%高の1万9,859ポイントと最高値を更新し、2万ポイントの大台が目前です。

 先週発表された米国の景気・雇用指標が強弱まちまちで12月18日(水)終了のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.25%の利下げが行われる見通しが高まったことが米国株続伸の原動力でした。

 ただ、4日(水)にダウ工業株30種平均採用のユナイテッドヘルス・グループ(UNH)の経営幹部がニューヨークで射殺される事件が発生。事件をきっかけに高額な医療費をカバーしようとしない米国の医療保険業界への不満がSNS上で高まったこともあってか、同社の株は前週末比9.9%も急落しました。

 今週は11日(水)に米国の11月CPI(消費者物価指数)、12日(木)に11月PPI(卸売物価指数)が発表されます。

 予想では、いずれも前年同月比の伸び率が前回10月をやや上回りそうですが、予想を大幅に超えない限り、今週ももはや「トランプ・バブル」と呼んでいい楽観ムードが続きそうです。

 とはいえ、来週には18日(水)終了のFOMC、翌19日(木)終了の日本銀行の金融政策決定会合という日米中央銀行の政策金利決定イベントが控えています。

 今週後半になると、警戒感から相場が膠着(こうちゃく)する可能性もあるでしょう。

 日米に先駆けて12日(木)には景気が低迷する欧州でECB(欧州中央銀行)の理事会が開催され、0.25%の利下げが行われる見通しです。

 欧州、米国の中央銀行が一段と利下げを進める中、日本だけが利上げに向かう方向性の違いに注目が集まると、先週は1ドル=150円をはさんで小幅な値動きだった為替レートが再び円高方向に進む可能性もあります。

 そうなるとせっかく上昇機運が高まりつつある日本株の足を引っ張るかもしれません。

 8日(日)には中東シリアで反政府勢力が首都を掌握し、アサド政権を崩壊させたというニュースも飛び込んできたため、地政学的リスクの高まりにも注意が必要です。

 週明け9日(月)の日経平均株価(225種)終値は、前週末比69円高の3万9,160円でした。

先週:年金の目標利回りアップや中国人ビザ要件緩和で日本株も活況!米国株は適温経済で続騰!

 先週は2日(月)に厚生労働省が日本の公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の目標運用利回りを1.7%から1.9%に0.2%引き上げる案を示したことが判明。

 運用利回りアップのために日本株への投資比率を増やすのではないかという思惑が日本株上昇につながりました。

 同じ2日には米国バイデン政権が、中国への半導体輸出規制の対象国から日本やオランダなど主要同盟国を除外したという話が伝わり、半導体製造装置メーカーの東京エレクトロン(8035)が3日(火)、前日比4.3%高となるなど半導体関連株が上昇しました。

 4日(水)には中国の日本人に対する短期滞在ビザ免除措置の見返りとして、日本政府が訪日中国人に対するビザ発給要件緩和の意向を示したことでインバウンド(訪日外国人)関連株が上昇。

 主力の三越伊勢丹ホールディングス(3099)が前週末比9.1%上昇しました。

 週間の業種別上昇率ランキングでは保険業が2位に入るなど、来週19日(木)の日銀会合で0.25%の利上げが行われると収益増加につながる金融株が健闘。

 またGPIFの日本株投資比率引き上げ観測を受け、日立製作所(6501)が8.0%高、ソニーグループ(6758)が4.6%高。

 年金資金の投資対象になりやすい大型の国際優良株が多い電気機器セクターも上昇しました。

 個別株では、1月・7月末に500株保有の株主にQUOカード各1万円分を贈呈する株主優待制度の新設を発表したスマホゲーム会社のエイチーム(3662)が38.9%も急騰。

 発行済み株式の7.4%に相当する上限100億円の自社株買いを発表したアミューズメント施設運営のラウンドワン(4680)がインバウンド需要に対する期待感もあって22.3%高。

 トランプ相場の主役である防衛関連株の川崎重工業(7012)が12.8%高、米国向けに石油掘削用建機の油圧フィルタを製造するヤマシンフィルタ(6240)が9.5%高。

 トランプ氏の規制緩和方針で暗号資産ビットコインが5日(木)、初めて10万ドルの大台に一時到達したことを受けて暗号通貨関連のマネックスグループ(8698)が13.4%高となるなど、日本のトランプ関連株の上昇も目立ちました。

 先週発表された米国の景気・雇用指標に関しては、2日(月)のISM(全米供給管理協会)の11月製造業景況指数は新規受注が8カ月ぶりに拡大して予想を上回る結果に。

 逆に4日(水)の11月ISM非製造業景況指数は予想以上に低下し、3カ月ぶりの低水準となりました。

 雇用関連では、3日(火)の10月雇用動態調査(JOLTS)の求人件数は予想を上回る増加となり、解雇件数は1年半ぶりの大幅な減少でした。

 最も注目度の高い5日(金)の11月雇用統計の非農業部門雇用者数は前月比22.7万人増で予想を若干上回ったものの、失業率は前月から上昇して4.2%でした。

 米国の景気や雇用情勢が良すぎることも悪すぎることもなく適温であることは米国株のさらなる上昇につながりそうです。

今週:日銀は12月利上げを見送る!?日銀短観や米国イーロン・マスク氏の動向に注目!

 今週は11日(水)の米国の11月CPIや12日(木)の11月PPI発表が注目されています。

 ただし、最近の米国の物価は高止まりしているものの、緩やかな鈍化傾向が続いているため、それほど材料視されないかもしれません。

 日本では、日銀が企業に景況感を聞き取り調査して四半期に1度発表する12月の日銀短観(全国企業短期経済観測調査)が13日(金)に発表されます。

 前回の9月短観では、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は横ばいでしたが、大企業非製造業DIはインバウンド需要の拡大や猛暑による消費増もあって2四半期ぶりに改善しました。

 今回12月短観では大企業製造業DIは横ばい、非製造業DIは多少の落ち込みと予想されています。

 ただ中国経済の低迷や物価高による国内消費の停滞などで予想以上に落ち込む可能性もあります。

 もしそうなった場合、来週19日(木)終了の日銀の金融政策決定会合で0.25%の利上げが行われない可能性もあります。

 日銀の植田和男総裁は11月28日(木)の日本経済新聞のインタビューで、物価上昇率が2%を超えて推移していることなどから「データがオントラック(想定通り)に推移しているという意味では(利上げは)近づいている」と発言。

 また「一段の円安はリスクが大きい」と述べ、11月15日(金)に一時1ドル=156円70銭台まで進んだ円安に警鐘を鳴らしています。

 ただ、先週12月5日(木)には利上げに慎重なハト派として知られる日銀の中村豊明審議委員が広島市の講演で、追加利上げは慎重に調整するべきといった趣旨の発言を行いました。

 市場では、12月ではなくその次の2025年1月24日(金)終了の金融政策決定会合まで利上げを様子見するという観測も強まっています。

 拙速な利上げは急速な円高進行と日本株の急落につながりかねないだけに、今週後半の日本株は来週の日銀会合をにらんで神経質な展開になりそうです。

 一方、米国では5日(木)にトランプ次期政権で新組織「政府効率化省」のトップにつく電気自動車メーカー・テスラ(TSLA)創業者のイーロン・マスク氏が共和党議員と会談。

 マスク氏は連邦政府の歳出2兆ドル削減を目標に掲げています。

 政府歳出の削減は政府の借金である国債発行の減少につながり、引いては米国の長期金利の低下につながるため株価には追い風。

 トランプ相場のもう一人の主役といえるイーロン・マスク氏の言動や剛腕ぶりに今後も注目が集まりそうです。