投資は利己的な行動なのか?
投資とウェルビーイング(持続的な幸福)の関係について先月考えてみましたが、投資は一般には利己的な行動だとみられています。
投資の本質的な目的は、自己資金を増やすことですから、そう考えられがちなのは分かりますが、本当にそうでしょうか。
投資行動が誰かをおとしめているのであれば明らかに利己的とはいえますが、少なくとも株式投資、債券投資、不動産投資において誰かを邪魔して、お金を増やすことはないように思えます(もちろん風説の流布とかは論外)。
エンジェル投資家やベンチャーキャピタルが行う未上場企業への投資も、最後はもうけるというゴールをもつものの、成長の見込みがある企業のサポートをしている点で100%利己的とはいえないでしょう。私たちが株式投資をして利益が出たあとに売却をするのも、それを利他的というには違和感があります。
「真面目に働いているけど投資はできない私より資産を大きく増やすなんてズルい」という気持ちが投資を悪いもの、ズルいもの、そして利己的な行動だと決めつけているのかもしれません。
とはいえ、「利他的」ということを投資家は少し考えてみてはいかがでしょうか。それは「投資以外」で考えてみることです。
利他的な人のほうが幸福度が高い?
ウェルビーイングと心理学についてはいろんな研究領域があります。それこそ禅によって得られる心の安定やマインドフルネスとウェルビーイングの議論などは、ファイナンシャル・ウェルビーイングの分野とあまり接点がない領域です。
ウェルビーイング研究についていろいろと調べていると「利他的な人のほうがウェルビーイングが高いのでは?」というトピックがあります。
利他的な行動は、家族に対して行うもの、自分の属する組織やコミュニティに対して行うもの(会社や町内会、友人関係など)、見知らぬ人も含めて行うものなどがあります。家族や友人に優しくすることを利他的というのは不思議な感じがします。
また、日頃の消費行動も「このお店を選んでうまいランチを楽しんだことは、私が幸福感を感じているだけではなく、店主にもいくらかの利益をもたらした」と考えれば利他的要素が含まれているともいえます。
投資行動についても「世の中がよくなったら、経済成長のために資金を投じた投資家の私ももうかった」と考えれば利他的要素が含まれているともいえます。
いずれにせよ、利他的な行動を意識すると、人はどうもウェルビーイングが高まるようです。世の中のために役に立てたと認識することは、そうでないよりも幸福感につながるということでしょう。
一方で、利他的行動は「させられた」のではなく「自分でやりたいと思ってやった」という主体性が重要だという示唆もあります。「ヤマサキさんに言われたからやった」ではなく「言われてみて『なるほど』と思ったので、自分の意思で寄付をする」と考えることが大事です。
寄付を通じて少しだけ利他的な自分になってみよう
個人投資家におすすめしたいのは、投資行動だけでなく「寄付」を通じて年に一度くらい利他的なアクションを具体的に起こしてみることです。
年末年始、自分や友人、家族が健康であったこと、幸福であったことに感謝する気持ちがあるなら、一年の最後にちょっとだけ利他的な行動を起こしてみてはどうでしょう。
ボランティアに参加するのも悪くないですが、ここはあえてお金だけで世の中に役立つ形、寄付を提案してみます。もし、十分な運用収益も出ていて、家計も黒字の状態にあるなら、数千円から数万円くらいの寄付をしてみるのです。
寄付をする幸福度は、金額にはあまり影響しないという調査もありますからそれほど気にする必要はありません。会社員であれば、年末調整の還付金くらいを寄付してみるのは悪くない金額だと思います。
還付金を回すと決めたら、寄付する団体を探してみましょう。自分なりに問題意識を持っている社会的課題に取り組む団体を探してみるのがおすすめです。新興国での飢餓や基礎教育、国内の相対的貧困問題の解消としてのシングルマザーのサポートなど、気になるテーマが何かあるはずです。
……どうでしょうか。何か寄付をしてみたいテーマと団体が見つかったでしょうか。振込口座が示され、寄付金をお願いしているページがあれば、あとはオンラインで振込が完結できます。
寄付金控除を生かせるなら還付手続きも忘れずに
寄付金については税制上の優遇があります。寄付金控除といいますが、活動が認められている団体については、寄付金控除の対象であることが明記されており、確定申告で寄付金額の一部が還付されます。税額控除、つまり計算式の数字が税負担軽減額になる式では、
- (寄付金額-2,000円)×0.4=還付金額
となります。ざっくりいえば4割弱は税の還付になるということです。
個人投資家の場合、確定申告をされることが多いかもしれませんが、寄付をした団体から領収証をもらって、寄付金控除の欄にそれを記入するだけで、確定申告の計算に反映されます。
寄付金控除の仕組みを冷静に考えてみると、実質6割強の負担で寄付をしたことになるともいえます。5万円の寄付で、税額控除が1万9,200円ということは実質3万800円があなたの寄付の出費ということになるからです。
寄付をするとき、「この団体の取り組みを支援しよう」と自己決定できるのもウェルビーイングにおいてはプラスです(自己決定権があることは幸福度を高めるため)。
投資でもうかった分を寄付せよ、とは言いませんし、そこまで利他的になる必要はありません(普通の人にとって投資の収益は、将来の自分に必要なお金です)。
それでもクリスマスや新年の雰囲気に流されて、寄付をしてみるのは悪くないと思います。ちょっと寄付をしたことで、自分自身が投資で利己的じゃないかと思っているなら、それでもいいのです。
私自身も、年末にまとまった金額の寄付をすることで、「今年の私、偉かった」と自己満に浸り、「向こう1年、募金活動の前をスルーしても心が痛まずに済む」という利己的な気持ちのために利他的な寄付をしているのですから。