とても12月利上げの織り込みを狙ったとは思えないインタビュー記事
日本経済新聞は11月30日の午前2時、「植田日銀総裁、利上げ『賃金・米国見極め』 データ想定通り 植田和男・日銀総裁インタビュー」、「日銀総裁『一段の円安、リスク大きい』 政策変更で対応も」という記事を電子版で配信しました。インタビューは28日に実施されたようです。
11月20日のレポートで、「市場の織り込みを進めるための情報発信があるかもしれない」と指摘していた筆者にとっては、こうした記事が出ること自体は全く驚きではありませんでしたが、中身は「ん?」と思わざるを得ないもので、市場が円高・金利高で反応したのは正直意外でした。
というのも、確かに記事の見出しには「データ想定通り」とありますし、「徐々に次の利上げのタイミングは近づいていると言えるか」との質問に対して植田和男総裁は、「経済データがオントラック(想定通り)に推移しているという意味では近づいていると言える」と答えてはいます。
しかし、続けて「ただ米国の経済政策の先行きがどうなるか、大きなクエスチョンマークがある。当面、どういうものが出てくるか確認したい。例えば(トランプ次期大統領から)関税の話が出てきているが、どうなるか見極めが必要だ」と付け加えています。
こう言われると、トランプ大統領就任の1月20日、あるいは2月初旬の予算教書演説まで待つつもりなのだろうかと、読み手は感じてしまいます。加えて、12月というよりむしろ1月利上げを示唆しているのではないかと見えたのが、以下のやりとりです。
――利上げ判断へチェックすべき指標は。
「なかでも大事なのは賃金動向と、賃金の価格への転嫁の動向だ。価格への転嫁を支えるには経済、特に消費の強さが必要だ。それ以外の変数も全て見る」
「24年の強い春季労使交渉(春闘)の結果が、毎月勤労統計に予想通り反映されている。所定内給与は2.5〜3%の間にあり、長期的に2%の消費者物価指数(CPI)上昇率と、だいたい整合的な水準にきている。大事なのはこれが継続するかだ」
――それは経済そのものの強さを確認することになる。消費環境は改善しているか。
「実質賃金はインフレ率と賃金上昇率の対比だ。財のインフレ率はまだある程度一時的な(上昇の)影響がある。これがもう少し下がれば今後の実質賃金は少し強くなり、消費をサポートしていくと考えている」
「賃金でいえば、25年の春闘がどういうモメンタム(勢い)になるか。それはみたい。そこは確認にもう少し時間がかかるが、それを待たないと金融政策が判断できないわけではない」
(出所)日本経済新聞社、楽天証券経済研究所作成
もし、12月利上げを明確に織り込ませたいのなら、最初の質問に対する答えの「大事なのはこれが継続するかだ」から先は言うべきではないでしょう。「所定内給与は2.5〜3%の間にあり、長期的に2%のCPI上昇率と、だいたい整合的な水準に来ている」で止めるべきでした。
しかも、丁寧に「25年の春闘がどういうモメンタムになるか。それは見たい。そこは確認にもう少し時間がかかるが、それを待たないと金融政策が判断できないわけではない」と言ってしまうと、連合が第一回回答集計結果を出す3月の前、すなわち1月の金融政策決定会合で動くことを示唆しているように読めてしまいます。