株式、債券、預貯金など、どの資産をどのくらい持つか決めることはアセット・アロケーション(資産配分)と呼ばれますが、みなさんはどのように決めていますでしょうか。

 前回の「家計収支とバランスシート、両方を意識して実践的な資産形成」では、家計としてバランスシートを意識して資産形成していくことの重要性についてご説明しました。今回は、さらに一歩進めて、人的資本や公的年金収入なども含めて考える、アセット・アロケーションについてご説明します。

働いて収入を得ることで資産が増え、年金も増える

 会社員や公務員、個人事業主などいくつかの働き方がありますが、働くことで、給与収入や事業収入を得ることになります。

 収入の一部を資産形成として預金や投資(NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)など)にまわすことで、将来的に、預金の利息収入や、投資の利益が得られます。

将来の資産収入や年金収入は、勤労収入があってこそ

 一方、日本は国民皆年金であり、20歳から60歳までは国民年金に、また会社員などの形で働く場合は厚生年金にも加入します。働いて得た収入から年金保険料を納めることで、将来に年金を受け取れるようになるのです。

 お勤め先によっては、退職金や企業年金もあるでしょう。長期にわたり働き続けることで将来受け取れる年金額や退職給付(退職金や企業年金)が増えていくのです。

人生が進むにつれて人的資本は低下し、金融資産、年金資産が増加する

 今後の人生で得られる勤労収入の合計は人的資本(※)と呼ばれています。人的資本は、例えば現在30歳、今後は年収400万円で35年間働くのであれば1億4,000万円となりますし、現在65歳、今後働く予定がないのであればゼロというわけです。つまり、人的資本は社会人になった時点が最大で、少しずつ減少していく形になります。

※より正確には単純合計ではなく、現在価値にして合算

 一方、働き始め、資産形成を進めることで金融資産を増やし、将来に受け取れる公的年金額(ここでは年金資産と呼びます)を増やしていけます。

年齢とともに変化する金融資産、人的資本、公的年金額(年金資産)

 上のグラフでは、人的資本が徐々に減少して65歳でゼロになる一方、金融資産と公的年金額が増えていく様子を表しています。公的年金は原則として65歳から受け取ることになりますが、上のグラフでは、便宜的に95歳になるまでの30年間受け取れるとして、その総額を示しています。

 この例では、65歳時点での金融資産は約3,000万円ですが、公的年金額は約6,000万円(200万円×30年)です。公的年金は生きている限り受け取り続けることができる終身年金ですので、結果的にいくら受け取れるかは分かりませんが、手元にある金融資産額よりも公的年金の受給総額が大きくなる可能性もあります。

人的資本や公的年金を含めた家計版バランスシートとアセット・アロケーション

 このように考えて、将来得られる勤労収入や年金収入の合計を家計版バランスシートに含める考え方があります。

 まず30歳の人の家計版バランスシートを考えてみましょう。すでにマイホームを購入していて、金融資産500万円、マイホーム5,000万円、住宅ローン残高4,500万円だったと仮定します。

30歳の人の家計版バランスシートの例

 この方の65歳までの35年間の勤労収入が年間480万円だと、人的資本は1億6,800万円(=480万円×35年)となります。一方、これまでに納めてきた年金保険料により、この時点では年間48万円の公的年金収入が積み上がっていることになります。

 バランスシートの資産側(左側)では人的資本や年金収入を考慮していますので、負債側(右側)では今後の支出について考慮します。30歳から65歳までの年間支出が360万円、65歳以降95歳までの支出が300万円だと仮定すると、支出総額は2億1,600万円となります。

 資産側の合計から負債側の合計を引き算するとマイナス2,360万円と、純資産(=資産―負債)がマイナスとなってしまいます。しかし、若い人はこの数字は気にする必要はないでしょう。しっかり働いて収入をアップすれば人的資本は増やせますし、支出を見直せば将来支出の合計額も減らすことが可能だからです。

 次に、現役引退したばかりの65歳の人の家計版バランスシートを見てみましょう。

65歳の人の家計版バランスシートの例

 今後の収入は年金収入のみであり、95歳までの30年間、年金収入が240万円だとすると合計7,200万円の年金を受け取ることになります。一方、今後の支出は年間300万円で、それ以外の資産状況は上の図の通りだったと仮定します。

 公的年金の受給額は基本的に物価の変動を考慮して毎年決められますが、長期的には安定的な収入(キャッシュフロー)と言えますので、ある意味、債券を保有しているのと同じような経済効果と考えることができます。

 つまり、65歳の方の金融資産は、高齢期に入りつつあるからといって債券中心にするのではなく、インフレ対策を考慮するならインフレに強い株式やREIT(リート:不動産投資信託)などを組み入れていくことが重要なのです。

 一方、30歳の人の場合はまだ人的資本が大きいわけですが、勤労収入がどのくらい安定しているかは、その人の働き方に依存します。大企業会社員や公務員のように安定的な給与収入がある方もいれば、プロスポーツ選手や、外資系金融機関、アーティスト、YouTuberなど、収入が不確実もしくは不安定な方もいるでしょう。

 勤労収入がどのくらい安定しているかによって、金融資産における、預貯金や個人向け国債などの安定資産と、株式(投資信託)などのリスク資産の配分(アセット・アロケーション)を決めていくことが大切になるのです。

 金融資産のみを見ながらアセット・アロケーションを検討される方が多いのではないかと思いますが、ご自身の人的資本や年金資産も考慮しながら、アセット・アロケーションを検討していくことが大切なのです。