今週は、ロシアとウクライナによるミサイル攻撃の応酬による地政学的リスクの高まりが株価の足を引っ張りそうです。
先週19日(火)、ウクライナはロシア領内に米国から供与された新型長距離ミサイル「ATACMS(アタクムス)」を撃ち込みました。
これに対抗してロシアも21日(木)、ウクライナ領土に新型の中距離弾道ミサイルを発射。
当初、ウクライナ側が核攻撃に使われる「ICBM(大陸間弾道ミサイル)」をロシアが使用したと発表したことから、戦争に核兵器が使われかねないリスクも台頭しました。
ウクライナ戦争を早期に終結させると断言するトランプ氏が次期大統領に就任する前に、少しでも停戦交渉を有利に進めたい米国バイデン現大統領は、駆け込み的にウクライナの新型ミサイルによるロシア越境攻撃を容認しています。
あまり考えたくないことですが、米国などの拙速な越境攻撃容認は、核戦争や第三次世界大戦勃発リスクにつながりかねないため、今週以降も注意が必要です。
今週26日(火)深夜には、11月7日(木)に0.25%の追加利下げを決めたFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事録も公開されます。
市場では次回12月18日(水)終了のFOMCで利下げが見送られるのではないかという予想も浮上しています。
議事録の公開で、利下げ継続に消極的なタカ派的議論が行われたことが判明すると株価にとってネガティブです。
先週の日経平均株価(225種)は前週末比359円(0.9%)安の3万8,283円と2週連続で下落。
日本時間21日(木)朝に発表されたAI(人工知能)関連の花形株である米国高速半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)の決算が市場予想を上回ったものの、驚くほど素晴らしいものではなかったことも影響しました。
ただ、決算発表後に一時急落したエヌビディア株は、前週末比0.02%安とほぼ横ばいで踏み止まり、機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数も週間で1.68%上昇。
景気敏感株の組み入れ比率が高いダウ工業株30種平均は、1.96%高で史上最高値を更新しました。
減税や規制緩和を主要政策に掲げるトランプ次期大統領の選出以降、米国ではハイテク株よりも資本財、一般消費財といった重厚長大産業の景気敏感株や中小型株の上昇が目立ちます。
一方、米国株が上昇し、22日(金)のニューヨーク市場終値が1ドル=154円70銭台と相変わらず円安トレンドが続いているにもかかわらず、日本株は低迷。
その背景には、少数与党に転落した石破政権の不安定さや、米国の次期トランプ政権下で予想される貿易摩擦の影響で、米国への輸出で稼ぐ日本の外需株が打撃を受けるのではないかという懸念があるようです。
週明け25日(月)の日経平均終値は前週末比496円高の3万8,780円でした。
先週:エヌビディア決算は波乱なし!防衛株上昇、医薬品株急落!米国小型株急騰も日本株は勢いに乗れず!
先週の株式市場はエヌビディア(NVDA)の決算を意識した神経質な展開が続きました。
同社が発表した2024年8-10月期の決算は、データセンター向けAI半導体の販売が依然絶好調で、売上高は、前年同期比1.9倍、最終利益は2.1倍に達する素晴らしいものでした。
しかし、現在進行形の2024年11月~2025年1月期の今期売上は前年同期比1.7倍の見通しで、最も強気な予想を下回ったため、株価は一時的に急落しました。
2023年8-10月期以降の四半期決算では、常に前期比2~3倍の驚異的な売上成長を続けてきただけに物足りない内容だったわけですが、その後、見直し買いも入り、先週のエヌビディアの株価はほぼ横ばいで終わりました。
日本の半導体関連株も主力株の東京エレクトロン(8035)が前週末比0.2%安となるなど強弱まちまちでした。
個別株では、22日(金)から2024年2度目となる商品値上げを発表した牛丼チェーン「すき家」運営のゼンショーホールディングス(7550)が前週末比13.3%高。
商品値上げは庶民にとっては生活苦につながりますが、小売企業などの株価にとっては引き続き好材料のようです。
ソニーグループ(6758)による買収観測が流れたアニメ、ゲームソフトなども製作するKADOKAWA(9468)は42.1%も上昇。
米国のエリオット・マネジメントの株式大量保有が判明した東京ガス(9531)が19.0%高となるなど、買収報道や物言う株主の登場が株高につながる銘柄も目立ちました。
また、トランプ政権発足で日本の防衛予算拡大が見込まれる上に、ロシア・ウクライナ間の地政学的リスク台頭もあり、防衛関連機器を製造する日本製鋼所(5631)が7.8%高。
株価が史上最高値圏にある主力株の三菱重工業(7011)は4.1%安と反落したものの、防衛関連株は今後もトランプ相場の主役として注目されそうです。
一方、先々週の14日(木)にトランプ次期大統領が反ワクチン派のロバート・ケネディ・ジュニア氏を厚生長官に指名したことを受け、日本でも医薬品株が業種別下落率ワーストになるほど急落。
肥満症薬の有望新薬を持ち株価が絶好調だった中外製薬(4519)が12.2%安となるなど、日本の医薬品株にもトランプ極端人事の悪影響が出ました。
米国ではエヌビディアの決算を無事通過したものの、米国司法省からインターネット閲覧ソフト「クローム」の売却を求める提案が裁判所に提出されたグーグルの親会社アルファベット(GOOG)が前週末比4.21%下落。
ここ10年以上、米国株の上昇相場をけん引してきた巨大IT企業の株価はそれほど上昇しませんでした。
その一方で、ビジネスフレンドリーなトランプ次期大統領の政策から恩恵を受けそうな小型株の株価指数ラッセル2000は週間で4.46%高。
通常、借入金も多く、株価も割高な小型株は金利上昇に弱い面があります。
にもかかわらず、トランプ相場ではハイテク株から景気敏感株や小型株などへの銘柄乗り換えが顕著になるなど、米国株の物色動向にはかなり大きな変化が出ています。
一方、日本の中小型の成長株が集まる東証グロース市場250指数は前週末比1.4%高と上昇はしたものの、いまだ歴史的な安値圏。
このあたりにも米国株に比べた日本株の弱さが如実に現れた1週間でした。
今週:米国最重要物価指標で物価高再燃!?世界的金利上昇がトランプ・ラリーを失速させる!?
今週の米国では26日(火)に民間調査会社コンファレンス・ボードの11月消費者信頼感指数、11月7日(木)終了のFOMCの議事録が発表。
27日(水)には米国の2024年7-9月期の実質GDP(国内総生産)の改定値の他、10月の個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)も発表になります。
変動の激しい食品・エネルギーを除いたコアPCEデフレーターは、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が最重要視する物価指標ですが、前年同月比2.8%増の予想。
前回9月の2.7%増を上回る見通しです。
予想以上に物価が上昇するようだと、トランプ次期大統領の関税引き上げや移民制限などインフレに直結する政策への警戒感もあって株価にはネガティブかもしれません。
日本国内では、1ドル=154円台で高止まりする円安による輸入品の価格高騰や秋の収穫期が過ぎても米の価格上昇が止まらないことから、物価高に対する国民の不満が台頭しています。
先週、1年で2度目の商品値上げを発表した牛丼チェーンのゼンショーHD(7550)の株価が急騰しましたが、値上げが個人消費低迷につながると、さすがに内需株が業績不振に陥る懸念も台頭しそうです。
先週21日(木)、国際フォーラムに出席した日本銀行の植田和男総裁は記者会見で12月19日(木)終了の次回の金融政策決定会合で追加利上げを行うかどうか、「現時点で会合の結果を予測するのは不可能だ」と発言。
追加利上げに積極的な姿勢をあまり見せませんでした。
日本の長期金利の指標となる10年国債の利回りは先週、一時1.09%台の高値をつけ、先々週以降、1%台を超えています。
その背景には、米国の10年国債の金利が4.4%台で高止まりするなど、トランプ次期米国大統領のインフレにつながりかねない政策に対する警戒感から、世界的に金利が上昇していることがあります。
金利上昇が収益増につながる銀行、生保、損保会社の株価上昇が続いていますが、金利の急激な上昇は株式市場全体にとっては逆風です。
緊迫化するロシア・ウクライナ情勢など地政学的リスクも加わって、さらに資源高や金利上昇が続くようだと、トランプ次期大統領就任前の2024年の年末相場で早くもトランプ・ラリーが失速する可能性もあります。
その場合、米国株に比べて弱さの際立つ日本株に対するダメージはかなり大きくなるでしょう。今週の日本株の奮起に期待したいところです。