※この記事は2018年7月6日に掲載されたものです。
 

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第4章 合理的だという自意識過剰。「行動ファイナンス」で損失は減らせるか

<第6話>マーケットの合理性を論じるより、己の非合理を知る

「さて、今日は『行動ファイナンス』という学問で明らかにされた、人の心理から生じるバイアス(偏り)が引き起こす、非合理な投資行動についてお話をしました。この分野からの示唆は、実は他にもいろいろあるのですが、もちろん知っておいて損はありません」

「まだ、あるんですか?」
 アンカリング効果、心の会計、オプティミズム・・・行動経済学を通じた投資のアドバイスは、隆一の過去の投資体験と通じるところも多く、腑に落ちるところが多かったが、正直なところ、頭はもういっぱいだった。

 そんな隆一の反応を見たか見ないか、先生は続けた。
「こんな話があります。人は合理的な投資行動をするわけではない。でも、<多くの参加者はそれぞれバラバラに行動するから、市場全体としては効率的な市場になる>と期待したい、が、現実はそうでもない、という話です。ファイナンス理論には、『効率的市場仮説』という学説があります。市場では利用可能な情報はただちに株価に反映されてしまう。このため、投資家は取ったリスクに見合う、それを超えるようなリターンは得られないし、株価を予測することはできない、というものです。また、行動ファイナンスでは、現実の株価は、必ずしも市場での裁定が働くわけでなく、理論価格に収れんするわけではない、と主張します。ちょっと難しいですか」

 隆一は<ちょっと難しい、と言うくらいなら、はじめからわかりやすく話してくれよ>と思いながら、無言でいた。

「先週のバブルの話で『株価はバブルで暴騰したり、暴落したりしても、長い目で見れば、結局、株価は企業の実力程度に収まる』と言いましたが、あくまで『長い目で見れば』ということなのです。今日の話でわかると思いますが、人は合理的に行動できません。バブルがあろうとなかろうと、短期的には、株価は理屈どおりに動いてはくれないのだとすれば、その期間の上げ下げ、特に下落に、個々人の心理が耐えられるか、という問題が生じるわけです。長期投資、積立投資のメリットは、そうした心理的負荷が掛かりにくい、というところにもあります」

「なるほど。どうなるかわからないものを予測するのはムダだし、相場に付き合おうとすると人間は振り回されるし、ほっておくのがいいってことですね」
「ふむ、おおむねその解釈で間違いありません。ただ、ポイントは長期的には企業の実力、つまり経済成長に応じた株価の成長を享受できるであろう、というところですが」
「そうですね、そうでないとそもそも資産は増えないですもんね」