※この記事は2018年6月11日に掲載されたものです。
 

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第4章 合理的だという自意識過剰。「行動ファイナンス」で損失は減らせるか

<第2話>損失を減らしたいから、リスクをとる。その心は?

「君、いろいろと会社に不満があるようだけど、転職を考えたことがありますか?」
 先生のおもむろな問いに、隆一は、たじろいだ。

「いやそりゃ、辞めたいと思ったことは何度もありますけど」
「君の就職相談に乗るわけではないので、あくまで例え話として聞いてください。仮に、今の会社より少し条件のよさそうな会社が、君のような営業マンを中途採用で募集していたとしましょう」

 どんな話になるのかわからず、隆一は、ともかく「はぁ」と、生返事をした。

「誰しも今の会社に不満があったら、今の会社にとどまるべきか、思い切って転職して新天地でがんばるか、迷うと思います。でも、仕事も慣れ、人脈もある、今の会社にいたほうがやっぱりいいのか、あるいは、チャンスのありそうな新たな会社の方がいい結果になるのか、将来はわかりませんよね。『隣の芝生は青く見える』ということで、転職先が青く見えているだけかもしれません」

「そうですね」
 まだ、隆一は、先生が何を言いたいのか、わからない。

「君だったら、どちらの選択をしますか? もちろん、実際には、転職先での処遇や社風などの情報がないと決められませんが、これはあくまで、今いったような限られた情報で、どちらの選択をするのかという性格診断みたいなものです。だから、気軽に答えてください」

 気軽に、と言われたので、隆一はすぐ
「そうですね。やっぱり、もう少し、今の会社で我慢するのかな」と、答えた。

「なるほど。これは、あなたが不確実な将来に対して、どのような選択をするのか、という心理的傾向を測る質問です。『リストラされた訳じゃないのに、わざわざ転職しなくても』という選択もあるのに転職してしまい、結果は失敗だった、というときの後悔は少なくないでしょう。意思決定をする前に、『後悔するんじゃないか?』と、悪い方の予測が頭に浮かんでくる人は、転職というリスクを回避しようと行動します。そういう人は、リスク回避型のタイプです。逆に、『今、転職しなかったら後で後悔するんじゃないか?』と、考える人は、転職してチャンスをつかもうとするでしょう。そういう人は、リスク選好型のタイプと見ることができるかもしれません」

 隆一は、そんなつもりもないけどな、という表情だ。