波乱のスタートとなった法定通貨としてのビットコイン

 中米エルサルバドルが世界で初めてビットコインを法定通貨として使用する国となった。この金融政策上の大胆な実験は世界中からの注目を集めている。

 初日から、アプリの不具合が発生したほか、首都のサン・サルバドルでは反対派によるデモが行われるなど波乱のスタートとなっている。

 加えて、仮想通貨交換業者で米最大手のコインベース・グローバルが米証券取引委員会(SEC)から法的措置を取る可能性に関する事前通知を受けたことを明らかにし、規制当局が業界を取り締まる構えであることを示唆したことも重なり、ビットコインの相場は大幅下落に見舞われた。

 エルサルバドルは治安の悪化や貧困などを理由に、米国に多くの移民を送り出しており、2001年から法定通貨として米ドルを採用している。エルサルバドルへの国際送金額は2020年に59億ドルと、2019年に比べて5%増加し過去最高となった。

 国内への送金や移民による国際送金はエルサルバドルのGDP(国内総生産)の20%以上を占める経済の重要な要素となっている。

エルサルバドルにおける個人送金のGDPに対する割合

出所:CNBC

 その一方で、国民の約7割は銀行口座を持っておらず、もし口座があったとしても国際送金に10%以上の手数料を請求される場合があったり、送金が確認できるまでに数日かかる場合があったりなど手間とコストの負担は大きい。

 ビットコインが法定通貨として採用されれば、外国に滞在する就労者から母国エルサルバドルへの送金の利便性は格段に高まることが想定される。

 CNBCの記事「El Salvador’s new bitcoin wallets could cost Western Union and similar companies $400 million a year(エルサルバドルがビットコインを財布にすることによってウエスタンユニオンや同業企業には年間4億ドルの損失になるだろう)」によると、現在、送金に関して60%は送金会社を経由し、38%は銀行を経由している。

 ビットコインが法定通貨になることによって既存の送金会社に4億ドルから最大で10億ドルの損害を与える可能性があると推定されている。

「この時代に、実際にウエスタンユニオンの事務所に行って、実際の現金を渡し、さらに25ドルをコミッションとして取られるなんておかしい。しかも実際にエルサルバドルに到着するまでには3日かかる」と不満を漏らす個人の話が掲載されていた。

 また、エルサルバドル本国で現金を引き出す時にも問題が大きいという。バスに乗って実際の場所まで取りに行かなければならないが、その事務所の周りにはギャングがたむろしているらしい。

世界の外貨準備における米ドルのシェアは下がり続けている

出所:WOLFSTREET

 ドルに対する信頼感だけでなく、そのドルを中心に構築されてきた既存のシステムに対する不信感も強まっているのは間違いない。

 既存の枠組みを守ろうとするエコノミストや国際通貨基金(IMF)、格付け会社はこの取り組みについて、経済の安定を脅かし消費者をリスクにさらすだけでなく、政府自身がビットコイン価格の乱高下で影響を受ける可能性があると批判している。

 しかし裏を返せば、それだけ、仮想通貨は伝統的な金融システムを根底から覆し、中央銀行の存在意義を揺るがせているということであろう。

 ブリッジウォーター・アソシエーツのレイ・ダリオは9月15日のCNBCで、「まず知っておいてほしいのは、現金はゴミであり、資産を現金で持つなということだ」と述べた。暗号資産ビットコインを保有しているとしながらも、同市場は政府に破壊される恐れがあると警告した。