「バーニー・サンダースが基本的に勝利したと言えるだろう」(チャーリー・マンガー)

 ビットコインや暗号資産に関しては、バフェットが直接の回答を避けた一方、マンガーは、より直接的な攻撃を行った。

「誘拐犯や恐喝犯などに便利な通貨を歓迎しない。また、何もないところから新しい金融商品を発明した人に、何十億、何百億、何千億というお金が行くというのも気に入らない。控えめに言えばこのような開発は文明の利益に反しているし、うんざりだ。」

 マンガーは、低金利が触媒となって株式全体のバリュエーションが急上昇し、市場に投資する人々に富を生み出す機会を与えていると述べた。その副作用として、格差が急速に拡大していることを痛烈に批判した。

 FRB(米連邦準備制度理事会)が市場に全面的に介入し、膨大な量の負債が追加され、政治的な状況は巨大な混乱に陥っている。残っているのは、旧態依然としたカジノ化した市場にけん引された「仮想的な富の効果」だけだ。資産と負債を際限なく膨らます両建て経済でカジノ化した市場の怖さは、「相場が急落すると資産は減るが、負債は減らない」ということである。

「現在の状況の一つの帰結として、バーニー・サンダースが基本的に勝利したと言えるだろう」

「なぜなら、すべてのものが非常に高くなり、金利が非常に低くなったため、これから起こることは、ミレニアム世代が私たちの世代に比べて金持ちになるのに非常に苦労するということだ。だから、これから台頭してくる世代の金持ちと貧乏人の差はもっと少なくなるだろう。だからバーニーは勝ったのだ。」

 資本主義の象徴であり、あの3億総右翼と言われた米国にも共産主義や全体主義の波が襲ってきたようだ。「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」はカール・マルクスの1875年の著書『ゴータ綱領批判』から広まったスローガンである。米国では今や能力に応じて働くことが抜け落ち、必要に応じて受け取るだけの社会になりつつある。

 政府が経済の50%近くを補っているMMT(現代貨幣理論)経済が始まっているが、共産主義の理念がなぜ米国の若者の間でまん延しているのかは、下の4分の短い動画をみていただければ、だいたい分かると思う。バフェットの右腕であるマンガーが述べたように、バーニー・サンダースとオカシオ・コルテス(AOL)は勝ったのだ。

サンダース候補:皆のための経済 システムを! VSディズニー(日本語字幕)

 著名投資家のマーク・ファーバーは、『マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート』の5月号で、【「無関心」そして「自己満足」も人々が都市封鎖と自由喪失を受け入れた要因かもしれない。オーウェルもまた『1984』で「人は自由と幸福のどちらかを選ぶとすれば、圧倒的大多数が幸福を良しとする」と書いている。この選択が政府の給付によって助長された。いくつかの統計によると米国には働くよりも働かないほうが良い生活を送れる人が何百万もいる。それが別の問題を導く。高失業率での人手不足だ。もっとも、さらに別の疑問も生まれる。ほとんどの西側民主主義国で政府が経済の50%近くを補っている。金融の領域でいえば西側民主主義国が人々から「貯蓄」を増やす能力を奪っているのは明らかである。金利がゼロ近辺やゼロ未満で、どうして貯蓄ができるのか。資本が何の収入ももたらさなければ、誰が貯蓄を増やして生き残れるのか】と、述べた。

「生産性を高めずに財政赤字を計上し、国債を発行し、貨幣を増発し続けることはできず、それは長期的に持続不可能」(レイ・ダリオ)なのである。

 民主主義諸国に住む多くが「自分たちは不可侵の自由を享受しており、その自由が全体主義・共産主義・独裁主義体制を打倒してきた」と考えている。しかし、それは大いなる勘違いであり、思い上がりではないか、むしろ今、自由が急速に失われているのではないかとマーク・ファーバーはみているようだ。

「信用拡大は政府が市場経済と闘う第一手である」、「資本主義から計画経済に導くすべての歩みが必然的に専制・独裁に近づく歩みとなる」(ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス)

 では、どうしてそのように危惧する人が少ないのか。その一因として、マーク・ファーバーは、「人は自由と幸福のどちらかを選ぶとすれば、圧倒的大多数が幸福を良しとする」(ジョージ・オーウェル)からだと考えている。ただし、その幸福も放漫財政と暴走中銀の“マッチポンプ”政策による幻覚にすぎないと…。

 マーク・ファーバーは今回のコロナ禍による混乱と恐怖で、そのマッチポンプに拍車がかかったと指摘している。そして、その先にあるのは、「悪という全くもって不幸な結果」だという。混乱と恐怖に陥った社会は、人々の無思慮と従属の繁殖地となり、歴史的に悪の根源になったとみているからだ。

 自由には責任が伴う。大衆は「みんなと同じ」だと感じることに苦痛を覚えないどころか、それを快楽として生きている存在だと、オルテガは指摘した。

【大衆は、急激な産業化や大量消費社会の波に洗われ、自らのコミュニティや足場となる場所を見失い、根無し草のように浮遊を続ける。他者の動向のみに細心の注意を払わずにはいられない大衆は、世界の複雑さや困難さに耐えられず、「みんなと違う人、みんなと同じように考えない人は、排除される危険性にさらされ」、差異や秀抜さは同質化の波に飲み込まれていく。こうした現象が高じて「一つの同質な大衆が公権力を牛耳り、反対党を押しつぶし、絶滅させて」いくところまで逢着するという】(NHKテレビテキスト「100分 de 名著」『オルテガ「大衆の反逆」』 2019年2月)

 いずれにせよ、「個人の自由と自由市場」が、美辞麗句の“目的”を並べたてて同調圧力をかけてくる全体主義者たちに破壊される流れにある。ポピュリズムもバブルも悲劇しかもたらさない。

 西部邁氏によれば、大衆という人種は、「わかりやすい単純模型」に簡単に飛びつく愚かな人々である。大量の人間が飛びつくものに、ろくなものがあった試しがないのである。相場の世界では、流行とかブームに乗ると、最後にはしっぺ返しが待っている。

 MMTも理屈通り動けば結構なことではあるが、皆のおカネ(公金)は政治家に管理されると誰のおカネでもなくなる。

 そして、あきれかえることに、その希少資源は助成金という破廉恥な票の買収に、とてつもなく巨額で壮観なピラミッドのような公共投資に、権力の触手を伸ばしていく巨大官僚組織の増殖・維持に浪費されてしまうのだ。

 マーク・ファーバーは、「唯一興味ある疑問は今日の支配階級(政治エリート層と最裕福層)が現在の無産階級の奴隷になるのか、それとも、この支配階級が何も所有していない人口のおよそ50%を奴隷にするのかである。つまり社会主義狂信者に支配されるのか、それとも、右翼・軍事独裁者に支配されるのかだ」と述べているが、全体主義の「非寛容」という「正義」は地獄につながっているのかもしれない。全体主義がインフレに向かうのは歴史の必然である。

 インフレが問題になっていても、FRBがそれに対してできることは何もない。しかし、彼らは、市場を落ち着かせるために、かなりのショーを行っている。それは、タイタニック号が沈むときのオーケストラの演奏を少しだけ思い出させる。

 世界を見つめてごらん。きっとキミの信じているものすべてが壊れていく時が迫っている…。

帝国の背後にある典型的な大きなサイクル

出所:レイ・ダリオ(リンクトイン)