※この記事は2018年4月6日に掲載されたものです。

 

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第2章 資本主義に飲み込まれるか、味方にするか?

<第4話>ほどよい格差が資本主義を安定化させる?

「資本主義は、個人が自由に経済活動できるだけでなく、社会に活力をもたらす、イノベーションが興りやすい、などメリットがあります。一方で、弊害も少なくない社会です。20世紀に社会主義革命が起きたのはこのためです。ただ社会主義は、資本主義以上に不都合が生じることが理解され、21世紀の今日では賛美する人は少ないことは知っていますよね」

「先生、私もそれぐらいはわかります。ベルリンの壁が崩壊したことがその証拠ですよね」
 隆一は、かつての記憶を引きずり出してみた。

「その通りです。まさにベルリンの壁崩壊がその象徴的な出来事です」

 先生はここで一息つき、再びコーヒーを入れなおした。

「資本主義にはプラス面、マイナス面があります。マイナス面が出たときには、経済もマーケット環境もそれによって短期的な影響をかなり受けます。まさにリーマンショックというのは金融機関を自由にさせすぎた結果です。このようなとき、株価が半年で半分になるような大きなインパクトが出てしまいます」

「リーマンショックは覚えています。あのあとうちの会社もだいぶあおりを食いました」

 先生は、ふむとうなずき、隆一がある程度、話に付いてきていることを確認して続けた。

「資本主義は富裕層ほどその恩恵を、貧困層ほど弊害を感じやすい社会です。富裕層が多数派になれる社会を作ることは難しく、むしろ、恩恵と弊害がバランスよく反映される中間層が多数を占めないと、資本主義は不安定化します。しかしながら、『少数の富裕層』と『多数の貧困層』という貧富の格差が大きい社会になれば、資本主義の恩恵より弊害を感じる人のほうが多くなって、反資本主義の人々が増えます。社会が分断されたり、暴動、テロなどが起こったりするわけです。リーマンショックのあと、ウォール街では大規模なデモが起こりました。これは、『どうして、資産額トップ1%の人のような富裕層が経営する金融機関を、一般庶民の税金で助けなければいけないのか』という怒りの現れです」

 隆一の心配どおり、投資がすぐうまくなるとは思えない話が続いたが、いち庶民である自分にとっては共感できる話だった。

「それだけでなく、バブルが起きやすいこと、経済格差をもたらすこと、そして、自由に商売ができる半面、不正や不公正も起きやすいことなどが、資本主義のもたらす典型的な弊害です」

「先生、バブルや経済格差と長期投資がどう結びつくかわかりません」

「まだそれでかまいません。私が体系的に投資のことを教えたいというのは、あなたが今感じているような知識の点と点を線で繋げて、それを面にしていく作業のことです。いまは一見、投資と関係ないと感じる知識をインプットしている段階です。ただ、必ずこの作業があとで効いてくるので、ここは我慢をして聞いてください」