※本記事は2019年4月5日に公開したものです。

 小麦や大豆などの穀物、金やプラチナなどの貴金属、原油や天然ガスなどの資源は、常に価格変動しており、そしてそこには必ず何らかの理由があります。時として、株価や通貨と異なり、変動要因が複雑な場合があります。
 この連載では、過去の一定時期の金や原油などのモノ(=コモディティ)の価格の急変に注目し、その急変が何を起因として発生したのかを解説していきます。
 価格急変の背景を知ることで、その銘柄の価格変動を分析する知識が身につきます。この連載を通して、価格変動の要所を見抜くための視野を広げてほしい、と筆者は考えています。

金の価格が1,200円から3,300円へ!何が起こった?

 今回は、2003年から2008年半ばにかけての、金(gold)の急騰に注目します。

金価格の推移 (東京先物市場 期先 月足 終値) 

単位:円/グラム
出所:東京商品取引所(TOCOM)のデータをもとに筆者作成 

 

 2003年時点で1,200円近辺だった金(東京先物市場、円/グラム)は、2008年7月に3,363円台に達しました。5年半で約2,100円上昇、およそ2.7倍になりました。 この時期は、金だけでなく、原油(*WTI原油先物)も23ドルから147ドルへ上昇するなど、他のコモディティ銘柄の価格も上昇しましたが、それまでのおよそ10年間、価格が大きく動かなかった金が大きく動いたことで、市場は大いに驚きました。

 この時期の、金の価格の急騰の直接の理由としては、中国・インドの金の消費量が増加したことが挙げられます。

 2003~2007年の4年間で、世界の金の需要は大きく増加しました。中でも中国とインドの2大国で増加が目立ちました。グラフを見ると分かるとおり、中国の金需要は2003年が215.0トン、2007年が339.8トンと、124.8トン増加して約1.5倍に、インドの金需要は、2003年が538.4トン、2007年が684.4トンと、146.0トン増加して約1.2倍になりました。世界全体の金の総需要はおよそ3,100トンですが、この2カ国だけでおよそ1,000トンと、3分の1を占めるまでになりました。

 

*WTI原油先物とは

WTIとは、West Texas Intermediate(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の略。米国テキサス州西部とニューメキシコ州南東部で産出する原油のこと。硫黄分が少なく高品質な原油で、ガソリンや灯油などを多く取り出せるのが特徴。WTI先物とは、ニューヨークマーカンタイル取引所で取引されており、世界的な原油価格の指標の一つ。原油だけでなく、世界経済の動きを予測する経済指標の一つとなっています。

 

中国・インド、および世界全体の金の消費量の推移(2003年と2007年)

出所:トムソンロイター・GFMSのデータをもとに筆者作成

  では、なぜこの時期に中国・インドの金需要が増えたのでしょうか。

  一言でいえば「新興国の成長」です。