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第四章企業の成長と資本政策の関係
広瀬 隆雄
米国株デビュー講座
このシリーズは(経済の勉強を兼ねて、株式投資に挑戦してみようかな?)と考えている初心者のために書き下ろしました。 執筆するにあたり、わかりやすく、すぐに役に立ち、身近に感じられる…

第四章企業の成長と資本政策の関係

2015/1/14
経済の勉強を兼ねて、米国株式投資に挑戦してみようかな?と考えている初心者のために、基礎的な投資講座を連載します。
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企業の成長が鈍化したら?

前章で急成長している企業には高い株価評価が付与され、割高で取引されることを説明しました。

普通、どんなに素晴らしい会社でも、事業規模が大きくなると成長率は鈍化するものです。これは毎年その会社の規模が大きくなると、その分だけ前年比較を計算する際の分母の数字が大きくなることが一因です。

さて、企業の成長が次第に鈍化する局面では、株価評価はどうなるのでしょうか?

理屈から言えば、その場合の株価評価も、成長率の鈍化とともにだんだん下がってきます。そのことを株価の伸びで説明すれば、企業が成熟するに従って、昔のような、倍々ゲームでのキャピタルゲインが望めなくなることを意味します。

企業が大きくなり、その結果成長率が鈍化すれば、株価評価は自ずと下がってくる

普通、若い伸び盛りの企業は、稼いだ利益を本業に再投資することが最も効率の良いおカネの使い方です。しかしだんだん昔と同じような投資リターンを期待できなくなれば、経営者は他の方法を考えなくてはいけなくなります。そこで登場するのが、自社株の買戻しや配当というカタチでの利益の株主への還元の方法です。

自社株買戻し

順番から言えば、企業が株主への還元を考える際、最初に検討するのが自社株の買戻しです。

なぜ配当を出すより先に自社株の買戻しを考えるのでしょうか?

その第一の理由は、自社株の買戻しは毎年必ず実行しなければいけないものではないからです。儲かった年に自社株を買い戻して、次の年に若し余裕が無ければ止める……そういうことが自社株買戻しでは常識になっています。つまり自由が効くのです。

企業は配当より先に自社株買戻しを検討する

ハイテク企業などの場合、社員への報酬を一部ストック・オプションで支払うケースもあります。つまり現金によるボーナスではなく、自社株を従業員に与えることで報いるわけです。すると自然に発行済み株式数が増えてしまい、それは一株当たり利益(EPS)を希釈化(=薄めてしまうこと)する原因になります。このためちょっとだけ自社株買戻しをして、発行済み株式数がむやみに増えないようにする企業は多いです。

自社株の買戻しはEPSを改善することに加えて、市場に実際に買い注文を出すので、目先の相場の需給関係を良くするという効果もあります。ただ企業が自分で自分の会社の株をトレードすると、それがちょうど決算発表前の微妙な時期に該当していたなどの不都合を生じる場合があります。このため普通、企業の自社株買戻しは証券会社の、それ専門にやっているデスクが、利益相反が生じないように注意を払いながら、計画的、規則的に実行します。

配当

次に企業の成長率がもっと下がった場合、自社株買戻しではなく、配当を払うという方法で株主に利益を還元することが行われます。

配当の場合も「一度配当を支払い始めたら、それを止めてはならない」という法律はありません。だから自社株買戻し同様、ムリになればいつでもストップして良いのです。

しかし……

一度配当を出し始めた企業が減配、ないしはそもそも配当自体を止めてしまったら(そのことを無配転落と言います)とてもイメージが悪いです。

一度配当を出し始めた企業が減配する、ないし無配に転落すると、とても格好悪い

つまり配当の場合、(一度始めたら、継続してやるものだ)という暗黙の了解があるのです。すると企業はしっかりと、今後未来永劫に渡って配当を出し続けられるようなメドがちゃんと立ってから配当を出す決断をします。この関係で配当を出し始めるのは自社株買戻しよりもずっと後になるのです。たとえばマイクロソフトが配当を出し始めたのは2003年、アップルは2012年です。

意地悪な見方をすれば、配当を出し始める企業は、もはや急成長企業ではなく、安定成長株だという風にも言えます。人間の一生にたとえれば、壮年というわけです。

配当を出している企業は人間の一生にたとえれば壮年に相当する

いまフェイスブックとアップルを比べた場合、皆さんは両方とも有望な企業という風にしか捉えていないかも知れません。でもフェイスブックは無配で、アップルは配当を出しています。すると企業のライフサイクルから言えば、片やフェイスブックは高校生、そしてアップルは中年というくらいの差があるのです。

企業の資本政策を投資に生かす

いま自社株買戻しを行い、配当をきちんと払い続けている企業は、優等生企業だと言っても良いでしょう。私は、そのような優等生企業を皆さんが投資対象に選ぶことには大賛成です。

ただ優等生には期待できないこともあります。

それは優等生企業の場合、もう何年も「勝ち組」であり続けた関係で、IPOしたばかりの企業のうち、ごく一握りの企業が見せるような、華々しい急成長は望み薄だということです。

自社株を買戻し、配当も出している優等生企業に対して、華々しい急成長は望めない

つまり急成長ではなく、安定成長なのです。イメージで言えば、売上高は年率7%、EPSは年率10%で成長するという感じです。

こういう銘柄はバタバタ売り買いしても余り儲かりません。つまり時間を味方につけ、じっくりと長期で株価が上がるのを待つ方がベターなのです。

安定成長株を相手にするときは、時間を味方につけ、じっくりと長期で株価が上がるのを待つほうがベターだ

そもそもEPS成長などの面で投資家に余り報いることが出来ないから、利益を配当に回すわけですから、投資家としては「貰えるものは、しっかり貰っておこう」という主義を貫かなければ、意味が無いのです。

アメリカの企業の場合、四半期毎に配当が支払われます。だから売ったり、買ったりせっかちなトレードを繰り返している間に、配当を貰い忘れたりすることがしょっちゅう起こります。だから安定成長している優良株をむやみにトレードするのは禁物です。

反対に、IPOして間もない若い企業は、そもそも急成長する見込みがあるから投資するわけであって、それが問題に直面し、成長しなくなったら、そんな株に、もう用は無いのです。もちろん、待ち続けても配当も払ってもらえないから、投資効率はすこぶる悪いです。つまりIPOしたての若い企業ほど、それを見る目はシビアにしてください。

IPOして間もない企業ほど、シビアな目で見ること

逆に何十年も成長を出し続け、利益を稼ぎ出し、配当を払い続けてきた企業は、よっぽどの事が無い限り、経営がグチャグチャになることは稀です。だから優良株に接する際は、辛抱のキモチが大切なのです。

IPO後、しばらくして新株を公募する会社は見込みがある

IPOして半年から1年後に、すぐにまた株を売り出す会社があります。このようなケースを、どう評価すれば良いのでしょうか?

私は昔、投資銀行に勤めていて、企業の増資を手伝う仕事をしていました。その関係で、どういう事情でIPOして間もない若い会社が公募をするのか? ということを垣間見る機会がありました。その経験から、こっそり皆さんにお教えすると、IPOして間もなく公募増資に踏み切る会社の株は「買い」です。

IPOして半年か1年しか経ってないのに、またすぐ公募増資する会社の株は、実は買いだ

そう言うと(そんな筈はないだろう? だって株を売り出すということは供給が増えてしまうことを意味するのだから……)と皆さんは考えるかも知れません。実は、私も最初、そう考えていました。

しかし公募増資の実務をこなしてゆく過程で(IPOして間もない会社が、また株を公募できるということは、ずいぶん難易度の高い事なのだな)ということを実感したのです。

ます上場直後の決算でズッコケる会社は投資家からソッポを向かれますから、もう公募は出来ません。

そういう会社がどうしても資金が必要となった場合はPIPEs(Private Investments in Public Equity=パイプス)と呼ばれる、私募増資に走ります。私募とは100人以下の投資家に、こっそり株を割り当てるやり方です。

PIPEsは「下品な商売の作り方」だと思われているので、モルガンスタンレーやゴールドマンサックスのような、格調高い投資銀行は絶対に引き受けません。幕下クラスの、魑魅魍魎(ちみもうりょう)とした零細証券が、その汚れ仕事を買って出るのです。

なぜPIPEsが忌み嫌われているか? というと、そもそもIPO後の大事な決算で、あれほど主幹事証券に「最初の決算は大事ですから、キッチリと良い数字を作ってきて下さい」と念を押されているにもかかわらず、だらしない数字を出してしまう……そんな会社に見込みは無いことはプロの投資家なら皆、承知しているからです。

そのような株は、あっという間に二束三文に売り叩かれます。

問題は、それでもそんな企業の中には、さっそく資金繰りに窮してしまうような会社もあるということです。

すると彼らは自分の会社の株価がペニー・ストックのように低い水準をウロウロしているにもかかわらず、そこでPIPEsという私募で増資に踏み切ってしまうわけです。

いま企業が調達できる金額は、(株数)×(株価)で決まります。すると同じ金額の資金を調達しようと思った場合、もしその会社の株が二束三文まで小さくなっていたら、逆に発行する株数をドーンと増やすことで帳尻合わせをする以外に無いのです。

でも既存株主の側からすれば、安値でそんなにじゃぶじゃぶ株を出されたら、たまったものじゃありません。なぜなら発行済み株式数が増えてしまって、自分の持ち株比率が希釈化されてしまうからです。

そこで投票権を下げたくない投資家は、嫌々ながらPIPEsの売出しに応じます。あるいは(あの会社を乗っ取ってやろうか?)と考えるような、怖いアクティビスト投資家などが売出しに応じる場合もあります。このようにPIPEsに手を出す企業は、もう万策尽きたような「死に体」の会社が殆どです。PIPEsに手を出すような企業の株はすぐ処分してください。

PIPEsに手を出すような企業の株は、即、売ること

さて、おなじ増資でも自分の会社の株価が物凄く高値を舞っているときに公募増資を発表する企業は状況が異なります。

この場合は、株主として「イラッ」と来るキモチを抑えて、よーく考えてみて下さい。

なるほど、せっかく株価が高値で皆ルンルン気分だったのに、増資で新しい株の供給が増え、その結果、需給関係が悪化して株価が下がるというのは、面白くない展開です。

しかし……

株価が高いということは、先ほどの(株数)×(株価)の式から考えれば、最小限の株数を出すだけで、必要な資金が調達出来てしまうわけですから、希釈化は最小限です。それは難しい表現をすれば、企業にとって資金調達コストが安いことを意味します。

次に、株はお金が必要なときに出すものではなく、発行体にとって有利な条件の時に出すものです。将来、設備投資などで資金ニーズが予想されるのなら、株価が割高気味くらいに高く取引されているときを狙い澄まして、すかさず増資を発表するのは、むしろ堅実な経営なのです。

下はEV(電気自動車)のメーカーであるテスラ・モーターズ(ティッカーシンボル:TSLA)の株価チャートです。同社はIPO後、これまでに三回も増資をしています。なるほど増資後は需給関係が悪化して株価が下押す場面も見られますが、ずっとテスラ株を抱いていれば、結局、公募で買った人は全員、儲かっていることがわかります。

テスラの場合、ネバダ州にギガファクトリーと呼ばれる、巨大なバッテリー工場を建設する予定です。従って資金はどれだけあっても足らないのです。

これは育ち盛りの子供がどんどん栄養をつける必要があるのと同じで、むしろ株を出して資金を調達し、それを本業に突っ込むことが、会社にとっても、株主にとっても、最も理に叶っていて、それゆえに安全な資本政策である好例です。

IPOして間もない会社が、ぶっちぎりの好決算を出し、それに抱合せるように公募増資をする……こういうことは、星の数ほどもあるIPO企業のうち、ほんの一握りの元気の良い会社だけに許された特権です。

若い会社がとびっきり良い決算の発表と同時に公募増資を発表する……これはほんの一握りの元気の良い会社だけに許された特権だ

だから公募増資の値決めが済み、その後、場で取引されている株価が公募価格を割り込まないことを確認出来たら、再び強気で買い向かってOKです。

あなたの投資資金と銘柄選択

通常、株式投資を始めたばかりの投資家は、投資資金が限られています。数十万円から、せいぜい百万円くらいの資金のケースが多いと思います。

その場合は、あまり沢山の銘柄に投資することは出来ないと思います。

ひとつかふたつ程度の銘柄だけに投資する際は、IPOしたばかりの若い会社に全財産を投入するのではなく、大型株の、優良企業に投資するようにしてください。銘柄のイメージで言えば:

銘柄 コード 業種
AT&T T 通信
ベライゾン VZ 通信
ノバルティス NVS 薬品
マクドナルド MCD レストラン
プロクター&ギャンブル PG 日用品
ゼネラル・ミルズ GIS 食品
ジョンソン&ジョンソン JNJ 医薬品、医療機器
エクソン・モービル XOM 石油
ケロッグ K 食品
コカコーラ KO 飲料
バクスター・インターナショナル BAX 医療関連
ベクトン・ディッキンソン BDX 医療関連
チャーチ&ドワイト CHD 日用品

などになります。これらの銘柄は四半期ごとの業績の変化がおとなしく、アナリストにとって数字が読み易い企業です。配当も出しています。

もちろん、業績が安定していて配当も出しているからと言って、これらの株を買うと必ず儲かるというわけではありません。

でも慣れないうちは株価の動きがマイルドなこれらの銘柄で練習するのが一番です。若し読者の皆さんの中で、「NISA(小額投資非課税制度)を活用し、個別株に投資したい」という人も、上に挙げたような銘柄が適していると思います。

もちろん、投資資金が限られているうちは個別銘柄ではなく、ETF(上場型投信)を買うという方法も有効です。ETFに関しては後日詳しく解説します。

上の一覧表に掲げたような銘柄は、どれも長年好業績を出し、安定成長期に入った優良株です。ということは逆に言えば華々しい急成長は望めないということです。

そこである程度経験を積んだ投資家は、IPOしたての若い企業に挑戦してみたいと考えるかも知れません。この場合、覚えておいて欲しいことは、IPOしたばかりの企業が、本当に良い会社かどうかを判断するのはプロにもたいへん難しく、究極的にそれを決定付けるのは、四半期決算を発表するたびに予想を上回る、良い決算を、毎回出せるかどうかにかかっているということです。

もっと言えば、落伍者がどんどん出るということです。若し、あなたが投資した会社がたまたまそんな落伍者に当ってしまい、株価が下がったとします。その場合は未練ったらしくその株をいつまでも抱えず、悪い決算を出した時点ですぐに切ってください。

つまりIPOして間もない若い企業への投資は「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」式の、試行錯誤の繰り返しにならざるを得ないのです。

するとこの手の若い企業は、一回きり非課税の特典を享受できるNISAのような口座での保有には向かないことがお分かり頂けると思います。

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