「つみたて投資枠」と「成長投資枠」が新設、年間計360万円まで投資可能

 2024年から新しいNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)がスタートします。新規に投資できる期間が恒久化され、非課税保有期間が無期限となったのは私たち生活者にとっては朗報です。

 新しい制度を簡単にまとめると、新しいNISA口座では「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の二つの枠を同時に使うことができます。つみたて投資枠で購入できるのは、現行のつみたてNISA対象商品と同じで、積み立てで購入していく必要があります。

 購入できるのは一定の基準を満たした投資信託とETF(上場投資信託)。2023年2月9日現在、221本と、公募契約型株式投信全体の4%弱まで絞られています。成長投資枠は現行の一般NISAの対象商品と同様、上場株式や公募株式投資信託、上場REIT(不動産投資信託)などが対象です。

 こちらは一括で購入しても良いですし、積み立てで購入していくことも可能です。ただし、これまで認められてきた整理・監理銘柄や信託期間が20年未満の投信、高レバレッジ型の投信、毎月分配型の投信などは対象外となります。

 年間投資上限額はそれぞれ別枠で設けられており、つみたて投資枠が年間120万円、成長投資枠が年間240万円。併用すると年間計360万円までの投資が可能です。ただ無制限に使えるわけではなく、一生涯に投資できる金額も決まっていて1,800万円が上限です(このうち成長投資枠は1,200万円まで)。

 では、どのように新しいNISAを活用すれば良いでしょうか。いくつか活用例をご紹介します。

つみたて投資枠を優先的に使い、資産形成の土台に

 資産形成を行う場合、まず優先したいのが「つみたて投資枠」です。つみたて投資枠を使って、幅広く分散投資を行い、資産形成の土台となる部分(コア)をつくることが大切です。

 つみたてNISA対象商品は株式に投資する投信か、株式を含むバランス型が対象で、その多くは低コストのインデックス投信です。年間の投資枠は120万円ですから、毎月積み立てる場合には月10万円まで積み立てることができます。

 NISA口座の生涯投資枠は1,800万円。このうち成長投資枠を使う場合は1,200万円までと決まっていますが、成長投資枠は必ずしも使う必要はありません。つみたて投資枠だけで1,800万円を全て埋めていくことも可能です(図1)。

 例えば、社会人になって早い時期から投資信託の積み立てを始める場合、仮に毎月3万円(年間36万円)ずつNISAを利用すると50年にわたって非課税枠を利用できることになります。30歳から毎月5万円ずつ、60歳まで30年積み立てて、1,800万円の枠を使うといったことも可能です(図2)。

 もちろん無理のない範囲で、毎月1万円や2万円といった金額から積み立て投資をスタートし、徐々に金額を増やしていくのもありです。

 将来の稼ぎ力があり、投資できる期間を長く取れる人ほど株式を中心とした投資が可能です。その際、まずは世界の株式にまとめて投資することを考えましょう。世界の株にまとめて投資するにはいくつかの方法があります。

 一つ目は1本の投信で日本を含む世界の株にまとめて投資する方法です。具体的には「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI)」に連動することを目指すインデックス投信や、「FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス」に連動することを目指すインデックス投信に投資します。

 二つ目は日本株と日本を除く世界株を組み合わせる方法です。例えば、「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(除く日本、円ベース)」に連動するインデックス投信なら、1本で先進国と新興国の株にまとめて投資できます。

 三つ目として日本株と先進国株、新興国株に投資する投信を組み合わせる方法もあります。

 1本で世界の株にまとめて投資できる、幅広く分散された商品を購入したいという場合には一つ目の選択肢がおすすめです。日本株の個別株を保有している人は日本を除く世界株に投資するインデックス投信や先進国株に投資するインデックス投信だけを積み立てていくという選択肢もあります。

 同じ株価指数に連動するインデックス投信が複数あるときは、保有中のコストである運用管理費用(信託報酬)が相対的に低く、資金が安定的に流入している商品を選びましょう。

余裕資金がある人は成長投資枠でキャッチアップ投資

 つみたて投資枠と並行して成長投資枠を活用することで、これまでに蓄えてきた預貯金を投資に回すキャッチアップ投資も可能です。

 なるべく若い時期から投資信託の積み立てなどを活用して長期投資を行うのが理想ですが、時間的な余裕がなかった人も多いのではないでしょうか。今回の改正で、つみたて投資枠と成長投資枠を同時に使えるようになることで、40代後半や50代からでもNISA口座を活用しリタイア後に向けて資産を積み上げることができるようになります。

 ある程度まとまった預貯金がある人は、例えばつみたて投資枠で毎月10万円の積み立て投資を行い、成長投資枠を活用し毎年240万円ずつ投資を行うことで短期間に非課税投資枠を埋めることも可能です(図3)。

 つみたて投資枠では積み立てが原則ですが、年2回以上の買い付けであれば積み立てとみなされます(金融機関により積み立ての設定回数は異なる)。成長投資枠での投資は一括でも、積み立てでも良いでしょう。生涯投資枠が埋まった後は長期で運用を続けていきます。

 つみたて投資枠と成長投資枠で異なる商品を購入する必要はありません。つみたてNISA対象商品なら、つみたて投資枠でも、成長投資枠でも同じ商品を購入していくことができます。

 つみたてNISA対象商品は購入時手数料が無料で、保有中にかかる運用管理費用(信託報酬)も一定水準以下と決まっていて、長期の資産形成に適した商品に絞られています。多くの人にとっては両方の枠で同じ投信を買っていくのがシンプルかつ続けやすい方法ではないでしょうか。

成長投資枠でリスクを取って攻めのサテライト運用も

 一方、個別株やREITといった商品はつみたて投資枠では購入できません。現状、一般NISA口座では個別株投資をしている人も多く、2014年の制度開始から商品別買い付け総額(2022年9月末時点)のうち約42%を上場株式が占めています。

 ベテラン投資家で、新NISAでも個別株投資をしたい人はつみたて投資枠で投資信託を積み立て、成長投資枠で個別株を買うということになります。一般NISAの年間投資枠の上限は120万円でしたが、新NISAの成長投資枠は240万円となるため、投資できる企業も増えます。

 今回の改正では保有する金融資産の一部を解約しても非課税投資枠が復活することになりました(売却の際に空くのは時価ではなく、取得価格=簿価で計算されます)。ただし、枠が復活するのは翌年なので、短期売買には不向きです。長期で企業価値が上がるような会社の株をしっかり選んで長期で保有したいところです。

 つみたて投資枠・成長投資枠ともに指数にこだわらない運用を行うアクティブ投信を購入することもできます。ただ、アクティブ投信は玉石混交でそれを見分けるのは難しいとされます。

 まずはつみたてNISA対象商品の中から運用方針などが記載された交付目論見書や月次リポートをしっかり読んだり、投信の説明会(動画・対面の説明会など)があれば視聴・参加したりするなど「主体的に」調べ、その結果、納得・共感するものがあれば候補に加えてもよいでしょう。

 一般投資家が投信を評価するアワード 「投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Year」のサイト(特に投票者のコメント)などは参考になります。

 多くの人にとって新NISAの生涯投資枠1,800万円は資産形成を行うのに十分な金額だと思います。なるべく早く非課税枠を埋めていき、長期で運用を続けるのが有利です。

 年齢、運用できる期間、投資に回せる金額、これからのライフイベントなどによってさまざまな活用法が考えられます。新NISAが始まる2024年に向けて、無理のない、自分なりの投資計画を立てていきましょう。

*新NISA制度については2023年1月末時点の情報を基に記載しています。

竹川美奈子(たけかわ・みなこ)氏 LIFE MAP合同会社代表 ファイナンシャル・ジャーナリスト
出版社や新聞社勤務などを経て独立。2000年FP資格を取得。取材・執筆活動を行うほか、投資信託やiDeCo(個人型確定拠出年金)、マネープランセミナーなどの講師も務める。個人投資家の草の根交流会「コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べ(東京)」共同幹事などを務め、投資のすそ野を広げる活動に取り組んでいる。『一番やさしい! 一番くわしい! 個人型確定拠出年金 iDeCo(イデコ)活用入門』、『一番やさしい!一番くわしい!はじめての「投資信託」入門』(以上、ダイヤモンド社)、『臆病な人でもうまくいく投資法 お金の悩みから解放された11人の投信投資家の話』(プレジデント社)ほか、著書多数。