毎週金曜日夕方掲載

本レポートに掲載した銘柄:ソニー(6758)アルプスアルパイン(6770)

1.技術革新が進むスマホカメラ

 今回は、スマートフォンのカメラに焦点を当てます。

 スマホユーザーにとってスマホカメラは最も重要で身近な遊びの道具です。スマホが単なる通信機器や小型パソコンとしてだけでなく、遊びの道具として多くの人々から愛好されているのは、スマホカメラの技術進歩によるところが大きいと思われます。

 スマホの歴史の中でスマホカメラを大きく進歩させてきた会社はアップルです。2007年6月に発売された初代iPhoneのカメラは200万画素という高くはない性能でしたが、2011年10月発売のiPhone4sは背面カメラ800万画素、前面カメラ(自撮り用カメラ)30万画素と高性能化しました。2011年にアップルのCEOに就任したティム・クック氏は、iPhoneの徹底的な高性能化を推し進めたため、iPhone搭載のカメラも急速に技術進歩していきました。

 そして、2015年発売のiPhone6sからは背面カメラ1,200画素、前面カメラ700万画素になり、2016年9月発売のiPhone7Plusでは、背面カメラとしておのおの1,200万画素の広角カメラと望遠カメラが搭載され(デュアルカメラ)、さまざまなタイプの写真が撮影できるようになりました。ここからスマホカメラの「多眼化」が始まりました。

 この動きは他のスマホメーカーの倣(なら)うところとなり、2017年からはサムスン電子などの有力スマホメーカーが2眼以上の多眼カメラを搭載したスマホを発売するようになりました。

表1 iPhoneのカメラ画素数、CPUの技術進歩

出所:各種報道より楽天証券作成

表2 YouTubeのユニークユーザー数

単位:億人        
出所:2008年はGigazine(元出所はForbes)、その他はYouTube    
注:ログインしたユーザーのみの数字    

2.iPhoneは個人の表現活動に革命をもたらした

 このようなスマホカメラの高性能化が、世界中の個人の表現活動に大きな変化をもたらしました。単に、写真や動画を撮影してSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に掲載するだけではなく、映画仕立て、ドラマ仕立ての動画を個人がiPhoneで撮影して、それをiPhoneやMacPCで編集してプロ並みの動画を作成。そして、2010年代に入って急速に普及してきたYouTubeに投稿することが一つの流行になりました。

 それまでは、そのような表現活動には高額な専用ビデオカメラや映像編集機器が必要であり、資金に余裕のあるプロやセミプロでなければ難しい分野でした。しかし、iPhoneがこの壁を取り払いました。全くの一個人が全世界相手に自己の表現力を問うことができる、驚くべき時代が到来したのです。

3. 5G(第5世代移動通信)が引き起こす第2次表現革命とスマホカメラの技術革新

 ところが、この変化には一つの問題点がありました。2015年9月発売のiPhone6s、6sPlusから4K動画の撮影が可能になりましたが、SNSへのアップや友人知人との4K動画のやり取りには通信速度の壁がありました。4G(第4世代移動通信)の通信速度では4K動画の送信に長い時間がかかるため、事実上無理だったのです。その結果、実際にテレビやYouTubeで見ることができる個人が撮影した動画は、画質の劣ったものになってしまいがちになったのです。

 この問題を5Gが解決しようとしています。4Kのような高精細動画の高速大容量通信が5Gでは可能になるからです。この結果、5Gが普及すれば、アマチュアが撮影した高精細の優良動画を、実際にYouTubeやテレビで楽しむことができるようになると思われます。個人の表現活動が一層大きく前進する可能性があります。

 このように、5G時代に予想される個人の表現活動の進歩を考えると、スマホのカメラの技術革新は今後も続くと予想されます。高級スマホのスマホカメラは、平均すると前期まで背面カメラが2~3個+前面カメラ1個、計3~4個でしたが、今期からは背面カメラ3~4個+前面カメラ1個、計4~5個になると予想されます。カメラレンズの口径も傾向的に大きくなっているため、カメラの眼に使うイメージセンサーが大判化しています。画素数もより一層多くなると予想されます。このようにイメージセンサーが高性能化する傾向にあり、足元ではイメージセンサーの需給がタイトになっていることもあり、価格が下がりにくくなっている模様です。

 また、背面カメラにはおのおののカメラにオートフォーカスアクチュエーター(AFアクチュエーター、AF付きの絞り機構)や手振れ補正アクチュエーターが装着されるようになり、これも高性能化する傾向にあります。このため、アクチュエーターの単価上昇が期待されます。また、iPhoneの前面カメラにはまだアクチュエーターは搭載されていませんが、近い将来搭載される可能性もあります。

 5Gスマホは2020年から出荷が伸び始め、2021年から本格的な普及期に入ると予想されます(グラフ1)。そして、5Gスマホメーカーの足元の動きは、グラフの勢いを上回るものになっているようです。5Gスマホの伸びがスマホ市場全体を再成長させることが期待されます。従って、イメージセンサー、アクチュエーターともに、5G時代には単価が下がりにくくなるか上昇し、数量増加が予想されます。

 スマホカメラの関連企業は、ソニーとアルプスアルパインです。

 ソニーは、スマホカメラの眼に使うイメージセンサーで世界トップの会社です(イメージセンサーの世界シェアは、1位ソニー50.1%、2位サムスン20.5%、3位オムニビジョン11.5%。2018年)。

 アルプスアルパインは、スマホカメラのアクチュエーターで世界トップの会社です(スマホカメラ用アクチュエーターの世界シェアは、推定で、1位アルプスアルパイン70~80%、2位ミネベアミツミ、3位TDK)。

 なお、スマホカメラの変化を半導体ブームと関連付けて見ると、2016年4月を大底として2018年10月にピークを付けた前回の半導体ブームは、個人が撮影した写真、動画をSNSにアップする動きが世界的に急増したため、スマホのCPU(中央処理装置)が高性能化して同様に高性能化したカメラを制御できるようになり、スマホのストレージ(記録媒体、NAND型フラッシュメモリ)が大容量化し、SNSに投稿された写真、動画を記録するデータセンター(サーバーにはCPUとDRAMが搭載され、記録媒体としてHDDだけでなくNANDを使ったSSDが搭載される)が世界中で増設されたことが要因の一つです(重要な要因です)。

 この動きから考えると、5Gと高性能スマホカメラの組み合わせは、前回ブームを上回る半導体ブームを引き起こす可能性があります。

グラフ1 世界のスマートフォン出荷台数予測

単位:万台
出所:CNETの2019年7月4日付記事をもとに楽天証券計算(元出所はCanalys)